artscapeレビュー

2016年09月15日号のレビュー/プレビュー

ナムジュン・パイク没後10年 2020年笑っているのは誰?+?=??(前半)

会期:2016/07/17~2016/10/10

ワタリウム美術館[東京都]

ナムジュン・パイク(1932~2006)の仕事は相当に面白い。ビデオアートの創始者という肩書きでのみ語られることの多い彼だが、今回ワタリウム美術館で開催された「没後10年」の展示を見て、あらためてあらゆるヒト、モノ、コトを結びつけては変質させる、その強力な「触媒」としての可能性に着目した。
会期の前半は、現代音楽からスタートして、前衛美術作家としての志向を強めていく1950~80年代の作品を中心に展示している。この時期、パイクはジョン・ケージ、ジョージ・マチューナス、マース・カニンガム、ヨーゼフ・ボイスらとの出会いを軸に「ブラウン管がキャンバスにとってかわる」時代の新たな表現様式を模索していた。《ジョン・ケージに捧ぐ》(1973)、《ガダルカナル鎮魂歌》(1976)、《TVフィッシュ》(1975)といったビデオアート作品は、今見ても充分に刺激的、挑発的だし、「来るべき21世紀を見据えて、新たな形の分配について考えていく」というクリアーな思考が貫かれている。
映像メディアを通じて、出会いをグローバルに拡張していこうという彼の志向が頂点に達するのが、「サテライト・アート」として制作された《グッド・モーニング、ミスター・オーウェル》(1984)である。ニューヨークのテレビスタジオとパリのポンピドゥセンターで収録した番組を、放送衛星を使って同時中継するという試みが、視覚的、聴覚的なエンターテインメントとしても高度な段階に達していたことを、今回はじめて確認することができた。むろん、インターネットを使えば、いまは同じアイディアをもっと簡単に実現できるわけだが、問題はパイクほどのスケールの大きな構想力を備えたプロデューサーがいるかどうかだろう。そう考えると、やや悲観的にならざるを得ない。
世界各地で大プロジェクトを実現するとともに、ワタリウム美術館とのつながりも深まってくる1990年代以降の作品をフィーチャーした、会期後半(2016年10月15日~2017年1月29日)の展示も楽しみだ。

2016/08/05(飯沢耕太郎)

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竹岡雄二 台座から空間へ

会期:2016/07/09~2016/09/04

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

国立国際美術館でも見た展覧会の巡回だが、ハコが変わると、だいぶ印象が異なる。ここでは点数やドローイングが増え、部屋では可動間仕切りを使わず、そのままの大空間をゆったりと活用し、ミニマリズム的な造形群によって黒川紀章の建築と積極的に対話している。また遠山記念館の卓や文台など、古い調度品も特別出品され、新旧の呼応を生む。

2016/08/05(金)(五十嵐太郎)

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ギメ・ルーム開設記念展「驚異の小部屋」ほか

会期:2015/10/02

インターメディアテク[東京都]

久しぶりにインターメディアテクに立ち寄る。「雲の伯爵」や「帝大造船学」の展示、ギメ・ルーム開設記念展「驚異の小部屋」などを開催中だが、通常の真面目でお堅い博物館的な見せ方を変え、卓抜したセンスによって、アートやデザインを組み込む。細かく見ていくと、フェイクの古びたキャプション、背後のパネルとズレたフレーム、ランダム風の配置、高所の図面などの工夫に、ニヤリとさせられる。

2016/08/05(金)(五十嵐太郎)

ビルディングモデル展

会期:2016/08/05~2016/08/22

ASJ TOKYO CELL[東京都]

会場は国際フォーラム向かいの路面であり、抜群のロケーションだ。遠藤さんが手がけた建築作品から30の模型と世界各地で収集したミニチュア群が一堂に会する。背後にパネル写真が一点あるものの、主に金属系の素材によって制作されたコンセプト模型には、説明文や施設名称を一切つけず、素材と建築の基本形式だけをストレートに伝える潔い展示である。

2016/08/05(金)(五十嵐太郎)

サイ・トゥオンブリーの写真 ─変奏のリリシズム─

会期:2016/04/23~2016/08/28

DIC川村記念美術館[千葉県]

会期終了間際になって、ようやくサイ・トゥオンブリー展に足を運ぶことができた。これまでにも彼の写真作品は断片的には展示されたことがあるものの、これだけの規模の展示を見ることができるのは、まさに嬉しい驚きといえる。DIC川村記念美術館の会場には、初期から最晩年に至る写真作品100点のほか、絵画、彫刻、ドローイング、版画の代表作も並んでいた。
トゥオンブリーが写真作品を制作し始めたのは、1951年にノースカロライナ州のブラック・マウンテン・カレッジで、写真家のヘイゼル・フリーダ・ラーセンのピンホールカメラの授業を受けたことがきっかけだったようだ。つまり、絵画やドローイングとともに、ごく初期から視覚的な探求のメディアとして写真を意識しており、その後も断続的に作品制作は続けられていた。だが、それがまとまったかたちで展開されていくのは、1980年にポラロイド写真を使い始めてからである。今回の展示の中心になっているのは、ポラロイドで撮影したプリントを、複写機で2.5倍ほどの大きさに拡大し、さらにそれらをフレッソン・プリントやカラー・ドライプリントで、ややざらついた手触り感のある画面に仕上げた写真群だ。花、野菜、自作の絵画や彫刻などのクローズアップのほか、墓地や海辺の光景なども被写体になっている。どうやら、何を写すかよりも、そこにある事物が、写真、複写、プリントなどの操作を経ることで、どのように変容していくかに強い関心を抱いていたようだ。ここにも、トゥオンブリーの絵画やドローイング作品とも相通じる、「ものの流転」(things in flux)へのこだわりがあらわれている。写真をもうひとつの視覚として使いこなしていくことへの歓びが伝わってくるいい展示だった。
個人的には、以前から見たかった版画集『博物誌1 きのこ』の全作品が出品されていたのが嬉しかった。作品そのものに内在する偶発性、魔術性、多様性から見て、トゥオンブリーがきのこに強い親近感を抱いているのは間違いない。そういえば、彼の写真作品も、どことなく増殖するきのこの群れのように見えなくもない。

2016/08/06(飯沢耕太郎)

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2016年09月15日号の
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