2022年12月01日号
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artscapeレビュー

2009年07月01日号のレビュー/プレビュー

アール・イマキュレ 希望の原理

会期:2009/06/13~2009/06/21

CCAAアートプラザ(ランプ坂ギャラリー)[東京都]

「アール・イマキュレ(無垢の芸術)」とは、ダウン症の人たちがつくりだす芸術作品のことで、その特徴は「自然との一体感、調和を求める心、機知とユーモア」など特有の感性にあるという。本展は、彼らによる絵画、立体、エッチング、コラージュ、タペストリーなど50点あまりを公開したもの。それらの大半は、色を縦横無尽に塗り重ねた作品で、いかにも「無垢な芸術」といえばそうなのかもしれないが、こうした形式的特徴が「自然との一体感、調和を求める心、機知とユーモア」といった芸術的な意味と結びついているようには到底思えない。ダウン症の人たちによる芸術表現を持ち出すのはよい。けれども、それらを「希望の原理」として賞揚するのであれば、それぞれの作品をそのように価値づける言説レベルでの正当化が必要不可欠である。本展のカタログに掲載された中沢新一と長谷川祐子によるテキストは、その役割を果たすにはあまりにも不十分であり、まったくもって用をなさない。「研究」というのであれば、ダウン症の人たちによる芸術表現がなぜ同じような形式的な傾向を帯びているのか、そのメカニズムを解明することによって、それがいかに人類にとっての希望の原理となりうるかを実証的に論証しなければならない。

2009/06/17(水)(福住廉)

市川建治 展 花と夢

会期:2009/06/17~2009/06/28

Art Center Ongoing[東京都]

会場に足を踏み入れると、そこにはおっぱいがいっぱい。エロ本の写真を正方形に切り抜き、それらをもとに花々のかたちにコラージュした平面作品や立体作品が展示されていた。とくに平面作品は全体的な視点と個別的な視点によって見分けるとおもしろい。距離をとって全体を見渡してみると、膨大なピクセルの集合によって成り立つデジタル画像を無理やり拡大した図像のような味気なさを感じるが、ひとたび近づいて凝視してみると、女体の集合が醸し出す匂いにむせ返るほどだ。といっても、それらの個別的な図像は唇や下着、腋など、あくまでもパーツに限られているから、いずれも匿名性を帯びており、だからエロティシズムというより、むしろフェティシズムを強く感じさせている。同じように作られた立体作品には、植物の芽が植えられ、再生のイメージが強調されていたが、「エロ本」というメディアがすでに瀕死の状況にあることを考えると、むしろ死のイメージのほうが際立っており、その「生」と「死」の両極を丸ごと画面に定着させようとするフェティッシュな視線が力強くも頼もしい。

2009/06/19(金)(福住廉)

ラボ20 #21

会期:2009/06/20~2009/06/21

ST spot[神奈川県]

1997年に始まり今回で21回目となる「ラボ20」は、毎回キュレーターを置き、10分程度の作品が審査を受け、そこから選ばれた若手作家がキュレーターからアドバイスを受けながら、20分ほどの本番の作品を仕上げてゆくという企画(「ラボ20」とはこの20分の作品時間を指す)。新人育成機能を果たしてきたこのイベントから羽ばたいていった作家は多い。ニブロール矢内原美邦)、康本雅子快快大橋可也&ダンサーズ……。今回のキュレーター手塚夏子も「ラボ」出身。彼女が出演した回では、ボクデスの小浜正寛もいた。
今回出演は5組。辻田暁、下司尚実、柴田恵美、井上大輔、石田陽介+松原東洋。非常に丁寧に自分独自の運動(ダンス)を模索する、そのさまは共通していて、安易な受け狙いではないところは感銘を受ける。けれど逆に言えば、そうした点以外では評価しにくい作品ばかりだった。物語性は希薄で、展開を求めず、故にミニマルで、独自の動きの動機(ルール)を設定しようする点も共通で、その傾向は問題ないのだけれど、そのルールをある程度わかりやすいかたちで観客に共有できるようにしなければ、観客はただの傍観者になるしかない。石田と松原の「二人は雲の中」は、タイトルの印象と異なり、〈キスとかの濃厚な接触をしそうになる二人がどうにかそうしないで時間を進ませる〉というルールが明確で、他の四作品よりも見る側はアクセスしやすかった。とはいえ、二人がキスするかどうかなど、正直観客にとってどうでもいい事項。わくわくする作品はなかった。そのぶん、こうした新人公演の意味について考えさせられた。
一定の水準には達していないとしても、発信したいという欲求をもてあましているひとは多い。その受け皿として、美術のGEISAIにあたる無審査のイベントがダンス、パフォーマンスの分野にあってもいいのかも知れない。「ラボ」よりももっと気楽な、5分から10分くらいの作品を立て続けに上演する、ゴングショー的な公演。そこでもやはり観客は蚊帳の外に立たされるのかも知れないが。
ラボ20 #21:http://stspot.jp/finished/lab20-21.html

2009/06/20(木村覚)

岸田劉生 肖像画をこえて

会期:2009/04/25~2009/07/05

損保ジャパン東郷青児美術館[東京都]

没後80年を記念した岸田劉生の回顧展。自画像や肖像画、およそ80点を展示した。要点を簡潔におさえた解説文のおかげで、劉生のいう「内なる美」が、「装飾の美」「写実の美」「想像の美」という三段階を経ながら徐々に変化していく過程が、的確に理解できるようになっていた。後期印象派から北方ルネサンスの影響を受けた自画像は、外来の技法を取り入れることで近代的な自己意識を開発していった当時の日本人の精神構造を反映していたようだったが、それが関東大震災を契機に、今度は岩佐又兵衛や顔輝を参照しながら、いわゆる「デロリ」の美へと反転していく様子がおもしろい。狭い肩幅に大きな頭の肖像画はまるで「ガンケシ」のようで、それと大胆にデフォルメされた麗子像が劉生にとっての大きな到達点であることを考えると、劉生による近代的な自我の探究は、ついに日本的な「キャラ」に帰着したといえるように思う。

2009/06/20(土)(福住廉)

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村山知義と三匹の小熊さん

会期:2009/06/06~2009/07/12

ギャラリーTOM[東京都]

大正期の前衛美術集団「マヴォ」で知られる村山知義と、その伴侶となる岡内籌子による絵本「三匹の小熊さん」の展覧会。同作の原画や紙芝居、そして1931(昭和6)年に制作されたというアニメーションなどが発表された。壁面には村山による原画、かつて『子ども之友』誌に掲載された童画、近年の絵本が三段に並べて展示されていたため、村山の原画がほぼ忠実になぞられていることがわかるようになっていた。

2009/06/20(土)(福住廉)

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