2018年10月15日号
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artscapeレビュー

2017年02月15日号のレビュー/プレビュー

ティツィアーノとヴェネツィア派展

会期:2017/01/21~2017/04/02

東京都美術館[東京都]

いくら日伊国交樹立150周年記念だからといって、つい数カ月前に「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展を見たばかりなのに、今度は「ティツィアーノとヴェネツィア派展」かよ。たくさん見られるのはありがたいけど、贅沢いわせてもらえるなら、ひとつにまとめて「拡大版ルネサンス・ヴェネツィア絵画展」として見せてほしかった。でも前者はTBSと朝日新聞社、後者はNHKと読売新聞社の主催だからありえないね。ちなみに両展とも出品作家は目玉のティツィアーノをはじめ、ベッリーニ、ティントレット、ヴェロネーゼとずいぶん重なっているが、ティツィアーノ作品に関しては今回のほうが明らかに上。なにしろ今回はフィレンツェのウフィツィから《フローラ》、ナポリのカポディモンテから《ダナエ》《マグダラのマリア》《教皇パウルス3世の肖像》の計4点が来ているからね。とりわけ女性ヌードの上に金貨が降り注ぐ《ダナエ》は、いくつかのヴァリエーションがあるなかでも絶頂期の傑作だ。これに比べるとベッリーニもティントレットも見劣りするなあ。ティツィアーノの偉大さを証明する展覧会でもあるようだ。

2017/01/24(土)(村田真)

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村山康則/Rieko Honma「raison d’être─存在理由」

会期:2017/01/21~2017/01/29

BankART Studio NYK/1F Mini Gallery[神奈川県]

村山康則とRieko Honmaは、2015年にパシフィコ横浜で開催された「御苗場vol.16」に参加していた。互いの作品に共感を抱いた2人は、2年後に写真展を共催しようと考える。それが今回のBankART Studio NYKでの展示に結びついていくことになった。「raison d’être─存在理由」というタイトルには、「私たち自身の社会の中での在り方、なぜ写真を撮るのか、なぜArtが必要か、さまざまな理由を自らの視点から見つめ直し、もう一歩踏み込みもう一歩超えて行けるように」という思いが込められているという。
Honma の展示のメインは「cube」のシリーズで、透明なガラスの箱をいろいろな場所に置き、その中にモデルを入れてポーズをとらせている。箱を配置する空間の設定、撮影の条件の選び方、モデルのポージングなどがよく考えられていて、破綻がない作品に仕上がっていた。ただ、モデルがすべて若い女性であり、シチュエーションもほぼ均一で、予想の範囲に留まっているのがやや物足りない。可能性のある作品なので、さらに大胆に、予想がつかないような展開を盛り込んでいく工夫が必要になりそうだ。
村山の「T.L.G.B」も、コンセプトを先行させたシリーズである。都市空間の中で、頭上から光が下に落ちてくるような場所をあらかじめ選び、そこに誰かがちょうど通りかかった瞬間を狙ってシャッターを切る。あたかも舞台のスポットライトのような光の効果がドラマチックに作用して、見ごたえのある場面が写し取られていた。一枚だけ、自分自身がモデルとなって画面の中に入り込んだ写真があって、その「女装する」という意表をついた設定も効果的だった。写真の大きさ、フレーミングの処理など、最終的な展示効果をもう少し丁寧に押さえていけば、いいシリーズになっていくのではないかと思う。
Honmaや村山のような、次のステージに出て行こうとしている写真家にとって、このような展覧会の企画は、とてもよいステップアップの機会になる。次は「もう一歩」作品世界の内容を深めて、ぜひそれぞれの個展を実現してほしい。

2017/01/24(火)(飯沢耕太郎)

梅佳代『白い犬』

発行所:新潮社

発行日:2016/12/22

梅佳代はよく、岩合光昭や星野道夫のような動物写真家たちの仕事に対して、憧れや共感の思いを語ってきた。彼女の「日常スナップ」と動物写真とは、かなり違っているように思えるが、たしかに被写体に対する距離感の測り方、シャッターを切るタイミングのつかみ方など、共通性もありそうだ。そんな梅佳代の「初の動物写真集」が本書『白い犬』である。
被写体になっているのは、彼女が18歳で写真学校に入った頃に、弟が野球部の寮から拾って来たという「白い犬」。リョウと名づけられたその犬は、石川県能登町の実家の飼い犬となる。それから17年間、帰省の度に折に触れて撮り続けた写真群が写真集にまとまった。それらの写真を見ていると、被写体との絶妙な距離感を保ちつつ、「シャッターチャンス」を冷静に判断していく梅佳代の能力が、ここでも見事に発揮されているのがわかる。リョウは時にはユーモラスな表情で、時には哀愁が漂う姿で、また意外に獰猛な野生の顔つきで、いきいきと捉えられている。どこにでもいそうな雑種の犬の、何でもない振る舞いから、奇跡のような瞬間が引き出されてくるのだ。身近だが、異質な「いのち」のあり方を写真によって問い直す、いい「動物写真集」になっていた。
この写真集は、名作『じいちゃんさま』(リトルモア、2008)の続編ともいえる。普段の瞬発的な「日常スナップ」の集積とは違って、『じいちゃんさま』のような長期にわたって撮り続けられたシリーズには、ゆったりとした時間の流れが醸し出す、民話のような物語性が生じてくる。梅佳代のなかに、「物語作家」という新たな鉱脈が形をとりつつあるのではないだろうか。

2017/01/25(水)(飯沢耕太郎)

特別展示 医家の風貌

会期:2016/12/03

JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク[東京都]

東京駅前に「驚異の部屋」があるとは、なんと贅沢な! その一隅で、東大医学部附属病院から管理換となった肖像画と肖像彫刻の一部が展示されている。これらは病院内科講堂の大壁面に掛け継がれてきた歴代教授の肖像画で、医師でも医学者でもなく「医家」と称するところがイカにもイカめしい。作者に和田英作や中村研一らの名前も見えるなか、おや? っと首をひねってしまったのが黒田清輝作の《三浦謹之助》の肖像。ヘタというか、ハンパ感が尋常ではない。制作年を見ると1920年というから画家の晩年だ。近代洋画の父ともいわれる黒田だが、彼が日本美術史に残る作品を生み出したのは19世紀の最後の10年間だけで、以後は教授や審査員など多くの役職を担い多忙をきわめたため、制作がおろそかになっていく。特に1920年というと貴族院議員に当選した年であり、なんとか描き始めたものの続かず、未完成のまま放棄されたようだ。三浦教授も困ったに違いない。

2017/01/25(水)(村田真)

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現代美術実験展示『パースペクティヴ(1)』

会期:2017/01/24~2017/03/26

JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク[東京都]

どこでやってるのかわからず、スタッフに聞いてようやく判明したほど片隅でひっそりと行なわれていた。やっぱり「現代美術」の「実験展示」はこうでなくちゃね。100年前に建設された赤門倉庫から移設した重厚な鉄製キャビネット内で、藤原彩人、高木大地、今井紫緒、今井俊介、冨井大裕、今津景、菊池敏正という7人のアーティストに作品を発表してもらう試み。藤原は天地逆にした首像の陶器で、首に花を差せるようになっている。今津はキャビネットに合わせた縦長の画面に、モアやドードーなど絶滅した鳥類を丁寧に描き、古代エジプトの半獣神を線描し、さらにたっぷりの絵具をストロークで載せるというトリプルイメージ。冨井は赤と黄色の細長い水準器を2台ずつT字型に組んで垂直に立てている。それぞれインターメディアテクのコレクションからインスピレーションを得たとおぼしき作品。古いキャビネットも悪くないけど、この広い展示室の厖大なコレクションのなかに現代美術を紛れさせるのも一興かも。

2017/01/25(水)(村田真)

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