2019年07月01日号
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artscapeレビュー

かんさいいすなう──人はすわって考える? 大山崎山荘にすわろう

2011年08月01日号

会期:2011/06/17~2011/09/25

アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]

アサヒビール大山崎山荘美術館所蔵の黒田辰秋(1904-82)の椅子作品とともに、関西の現役作家30名の椅子が大正・昭和に建てられた洋風建築の内部に展示されている。黒田に直接師事した1940年代生まれの作家から、1970年代生まれの若手作家の作品まで約50脚の椅子が示唆するのは、われわれにとって理想の椅子とはなにか、という根本的な問題だろう。出品作家たちは、技法的・機能的側面から、あるいは歴史的側面から、または現代生活に求められるものという観点から、各々、この問いに対する答えを引き出そうとしているように思える。
黒田に直接師事した小島雄四郎、藤嵜一正、村山明らの椅子は、指物や漆芸、螺鈿等の伝統技術が駆使された、ケヤキの木目が美しい作品である。こうした「民藝」の流れを汲む椅子は、機能的であると同時に生活空間を彩るオブジェともなりうる。雨森一彦の切り株から枝が四方八方に生えているかのような椅子や、山本伸二のケヤキの削り出しによる彫刻のような椅子はそのオブジェ性に注目したものだろう。平松源の和室用の座椅子や、坂田卓也の低いロッキングチェアが想起させるのは無論、西洋由来の椅子に対し日本人が抱いてきた葛藤の歴史である。しかし、これらの椅子を見ながら、その葛藤は現在ではユニヴァーサル・デザインという新たな方向性を生み出しうるのではないかとも思った。若手の作家の作品には、意匠の側面よりも、機能性に目を向けたものが目立つ。シェーカー家具や北欧デザインに刺戟された宇納正幸、佃眞吾らの椅子、建築のトラス構造を用いた安森弘昌の椅子は、椅子の歴史に対するアカデミックな参照ともとれるだろう。安井悦子の子供用スツールは座面をまわすと音が出る仕掛けになっており、椅子における視覚と触覚の支配を切り崩そうとする意気込みがうかがわれた。
この展覧会が特徴的なのは、観客が出品作品のほとんどに実際に座れることである。ステージの上にある椅子に観客が座っている光景は、時には舞台の光景を観るようでもあり、意外な展示効果を放っていた。もうひとつ気づかされたのは、椅子というのは座ってしまえば本人はもとより、周りの人間からもそれがみえなくなってしまうことだ。このことは、ひょっとしたら、椅子が造形ではなくあくまで椅子であることのひとつの所以であるのかもしれない。[橋本啓子]

左=雨森一彦《木のかたち 椅子》 2003年、橡、拭漆仕上げ 55.0×109.0×60.0cm
右=山本伸二《オーム貝のベンチ》2010年、欅、オイル仕上げ(アサヒビール大山崎山荘美術館本館前にて撮影)

2011/07/16(土)(SYNK)

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