2019年10月15日号
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artscapeレビュー

BIUTIFUL ビューティフル

2011年08月01日号

会期:2011/06/25

ヒューマントラストシネマ渋谷[東京都]

残された人生の時間をいかに生きるのか。あるいは生きようと努めるのか。若者であれ老人であれ、人生が有限であるかぎり、これは誰にとっても妥当する普遍的な問いである。本作は、末期がんに侵された男が、この自問自答を繰り返しながら、やがて死を迎え入れるまでを描いた物語。アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督にとっては十八番ともいえる「生と死」をテーマとした映画だ。バルセロナの下町を舞台に、闇の仕事によって2人の子どもを養う男が次第に追い詰められてゆく様子は痛々しく、とてもやり切れない。離婚した妻やアフリカ系・中国系移民との神経をすり減らすようなやりとりも、その切迫感を倍増させている。ただその一方で、この映画は「死」に向かう恐怖より、むしろ「死」を受け入れる受動性に重点が置かれているせいか、圧迫されるにしても、その先に抜ける道が用意されることも事実だ。たとえば主人公の男は霊媒師として死者の霊の声を代弁したり、死者の魂を目撃することができたりと、ある種の霊能力に恵まれているという設定で描かれているが、この仕掛けによって、死に向かって残酷に進む「生」の時間を描きながらも、目に見えない「死」の空間を巧みに視覚化しているのである。それゆえ、主人公の男にとって、死はわが子との別れであると同時に、かつて若くして亡くなった父との再会でもあった。この世とあの世の境界がさほど明確ではなく、双方が互いに入り組んだ世界観。それが、現実の重い足かせをひとまず外してくれるように思わせるところに、今日的なリアリティーがあるような気がした。

2011/07/06(水)(福住廉)

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