artscapeレビュー
カレル・ゼマン展 トリック映画の前衛
2011年08月01日号
会期:2011/06/14~2011/07/24
渋谷区立松濤美術館[東京都]
イジー・トゥルンカと並び、チェコ・アニメを代表するカレル・ゼマンの展覧会。人形や切り絵、ガラスなどを駆使して制作されたアニメーション映像をはじめ、それらの絵コンテや資料などが展示された。1940年代から50年代にかけてのアニメーションだから、その技術はきわめてローテクであり、CGや3Gがデフォルトになりつつある現在の基準からすれば、たしかに稚拙に見えるのかもしれない。けれども、重ね撮りによってイメージを合成したり、ガラスの湾曲面によって海中のゆらぎを表現するなど、画面の随所に見られる工夫の痕跡が、なんともほほえましい。技術や制度が確立されていなかったからこそ、知恵を絞ってなんとかしようと努めたのであり、それだけ表現の意欲が掻き立てられたのだろう。技術的には成熟期を迎え、産業的には逆に斜陽の時代に入りつつある現在のアニメーションを顧みると、はたしてゼマンの時代とどちらが幸福なのかと考えざるをえない。今後は表現の意欲という原点がますます問われるのではないか。
2011/06/24(金)(福住廉)