artscapeレビュー

プレビュー:ミラル

2011年08月01日号

会期:2011/08/06

ユーロスペース[東京都]

ジュリアン・シュナーベルがパレスティナの歴史を綴った映画。1948年から1994年までの46年間にわたる激動の歴史を、孤児院を中心にして叙事詩のように物語る。殺戮の応酬という血塗られた歴史であることはたしかだが、この映画の特徴は、それを男性の視点からではなく、すべて女性の視点から描いていることだ。闘争する男性を尻目に戦災孤児を受け入れる活動に邁進する女性、逆に止むにやまれずインティファーダへ身を投じてゆく女性、あるいは継父からの性的虐待から逃れるも、その傷が癒えぬまま死を選ぶ女性。時系列に沿いながらも、それぞれの時代を4人の女性の人生から物語る構成だから、抽象的で一般的な歴史としてではなく、あくまでも個人が介在した具体的な歴史としてパレスティナの歴史を理解することができるわけだ。だからこそ、他者を傷つけ、あるいは傷つけられながら、歴史に翻弄され、あるいは歴史をつくり上げていく人びとの痛みや怒り、苦しみが深く伝わってくるのである。歴史とは、切れば血が出る生身の肉体にもとづいた物語であることを、この映画はみごとに体現している。

2011/07/08(金)(福住廉)

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