2020年07月01日号
次回7月15日更新予定

artscapeレビュー

トラフのコローロ展

2012年10月01日号

会期:2012.08.10~2012.09.09

CLASKA Gallery&Shop "DO" 本店[東京都]

鈴野浩一と禿真哉が主宰するトラフ建築設計事務所のプロダクトの個展。展覧会タイトルにある「コローロ」とは、エスペラント語で「色」を意味するそうだ。ホテルクラスカの2階のギャラリースペースとショップの2カ所で行なわれた展示では、細かな切り込みのあるカラフルな紙を広げると網状の器になる《空気の器》がそこかしこにふわっと浮かび、まるで空間そのものがほんのりと色づいたかのよう。ギャラリースペースではトラフの新旧のプロダクトが展示され、こちらもまた、「コローロ」に溢れている。積木のようなキッチンツールのセットや、カラフルな紙テープのようなフックなどを見ていると、ひょっとしたらその斬新な発想は、「積木」や「紙テープ」といった、ふだんわれわれが「色を最大限に活用したグッズ」として即座に思い浮かべるものから引き出されているのかもしれないと思った。
 そして今回の個展のメイン作品としてショップに展示された《コロロデスク》。化粧板総合メーカー「伊千呂」との共同開発により6月に発表されたこのデスクは、木の脚のうえに黄色や水色、ピンクなどの化粧版でつくられた箱が置かれたシンプルなデザインである。一見、DIY風であるが、おそらくトラフの意図はそんなところにはないだろう。というのも、《コロロデスク》用の椅子としてデザインされた《コロロスツール》に座ってみるとじつに不思議な気分におそわれるからだ。まるで自分がガリバーのような巨人となって、ミニチュアの部屋を見渡しているような気になる。そうした気分は、箱の三面に設けられた四角い開口部が「ミニチュアの部屋の窓」のように感じられるために生じるのだが、トラフ自身、それを意図して3つの開口部の大きさや高さを巧みに計算しているのではないかとさえ思う。開口部が「窓」として意識されるために、デスクに置かれたコップや鉢植えも、あたかもミニチュアの部屋に置かれた家具や観賞植物に見えてしまう。
トラフ自身、《コロロデスク》について「自分だけの空間が持つことができる、部屋のようなデスク。窓をあければ開放的、閉めれば個室」などと説明しているから、このデスクを「部屋」として感じるのは作者のねらいどおりである。しかし、よくよく考えれば、「自分だけの空間」といわれた場合、人は自らの身体を取り巻く空間を思い浮かべるのではないだろうか。ところが、《コロロデスク》がもたらす「自分だけの空間」は、デスクの前に座っている自分の体を取り巻く空間ではない。その空間は、自分の視界にすべて収まってしまう「ミニチュアな部屋」なのだ。そう考えると、このミニチュアのような「部屋」は、身体的ではなく視覚的に所有される「自分だけの空間」である気がする。
 身体的にではなく、視覚的に「自分だけの空間」を所有するという感覚は、ある意味、現代のライフスタイルにおける机のあり方からもたらされたものであるかもしれない。かつて、机の機能といえば、頭を下げて机上にある本を読んだり書き物をすることだったのが、いつのまにか、頭を上げたままパソコン画面に映るヴァーチャルな世界に入り込むための土台の役割となった。《コロロデスク》は化粧版で箱を組み立てただけのきわめてアナログなプロダクトでありながら、そこで得られる「自分だけの空間」は、パソコン画面に映った自分の部屋を一望するようなヴァーチャル感を漂わせる。さまざまな解釈を生じさせる、じつに巧みな机である。[橋本啓子]


《空気の器》の展示


ギャラリースペースでの《コロロデスク》等の展示風景
以上すべて、撮影=松原裕之 / Hiroyuki Matsubara

2012/09/09(日)(SYNK)

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