artscapeレビュー
寄藤文平の夏の一研究
2012年10月01日号
会期:2012.09.03~2012.09.29
ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]
JTのマナー広告「大人たばこ養成講座」、リクルートのフリーペーパー『R25』、東京メトロのマナーポスター「○○でやろう。」シリーズなど、ポスターや装丁の仕事で知られるグラフィックデザイナー寄藤文平氏の、 夏休みの研究発表になぞらえた展覧会。ギンザ・グラフィック・ギャラリーの展覧会は、デザイナーの過去の作品や実験的な試みが展示されることが多い。しかし、今回のタイトルは「夏の一研究」である。主題は結果としての作品ではなく、アプローチの方法にある。1階会場は、さまざまな規模のスケールを伝達する方法を試みる「ミクロ←→マクロを表す一研究」や、「幸福の黄色いハンカチ」や「タイタニック」といった映画タイトルを素材とした「ピクトで絵を描く一研究」など。地下会場は「装丁の一研究」。赤瀬川原平『千利休──無言の前衛』(岩波新書、1990)を題材に、装丁デザイン発想のプロセスと試作とを見せる。と、書いてしまうとあまりにも簡単なのだが、展示空間が見事。会場壁面には縦長の特製黒板37枚が並び、33点の試作が置かれている。黒板にはチョークによる手描きの文字とイラストでデザインの理由が解説されている。中央のテーブルは来場者による人気投票のコーナー。JTや東京メトロのマナーポスターと同様、シニカルな視点が貫かれているにもかかわらず嫌味を感じさせないイラストやテキストの処理。ストレートに言っては角が立つことに斜めから切り込む表現を見ると、大人とはかくありたいと思うのである。[新川徳彦]
2012/09/26(水)(SYNK)