artscapeレビュー

藤浩志の美術展 セントラルかえるステーション~なぜこんなにおもちゃが集まるのか?~

2012年10月01日号

会期:2012/07/15~2012/09/09

3331 Arts Chiyoda[東京都]

藤浩志の個展。代表作《かえっこ》を中心に、これまでの表現活動を振り返る構成だが、それらを「変える」「替える」「還る」「買える」など、さまざまな「かえる」によって整理したことで、展示の構成に強力な一貫性を与えていた。藤の表現活動がつねに社会的な文脈と密接した現場で実践されてきたがために、昨今のアートプロジェクトの源流のひとつに藤がいることがよくわかる展示だった。だが、それ以上に強く思い至ったのは、藤の表現活動を構成する要素のひとつとして限界芸術が大きく作用しているのではないかということだ。ペットボトルや玩具を組み合わせて構成されたドラゴンや恐竜の造形物は、平田一式飾りのような民俗芸術と明らかに通底しているからだ。ありあわせの日用品を造形する無名の人びと。それは、《かえっこ》の集大成として見せられた、各地で集められた玩具を色別にして会場の床一面に拡げたインスタレーションにも認められた。玩具の集積の背後には、交換を楽しんだ子どもたちと、その玩具を制作したデザイナーの存在が確かに感じられたからだ(玩具デザイナーは専門的な芸術家とみなされがちだが、無名性を前提としている点では非専門的な芸術家としても考えられる)。今後は、藤浩志というひとりの作家にとどまらず、アートプロジェクトという表現形式を限界芸術の視点によって分解しながら旧来の民俗芸術と接続する研究なり批評が必要とされるのではないか。

2012/08/23(木)(福住廉)

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