2020年07月01日号
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artscapeレビュー

デザインとしての椅子 アートとしての椅子

2012年10月01日号

会期:2012.09.08~2012.11.04

富山県立近代美術館[富山県]

日本の公立美術館におけるデザイン展の開催は、ファインアートの展覧会に比べて圧倒的に少ない。そこにはさまざまな事情が絡んでいるのだが、いずれにせよ、デザインがアートではないために美術館の収集・展示対象になりにくいと考えられていることがその大きな理由だろう。しかし、ニューヨーク近代美術館にはデザイン部門があるし、今回、紹介する富山県立近代美術館も日本では老舗の近代美術館でありながら、1981年の開館以降、グラフィックからプロダクトに至るデザイン作例を積極的に収集・展示してきた。また、同館は日本画、近現代美術の収集・展覧会企画においても高い評価を得てきている。「デザインとしての椅子 アートとしての椅子」は、アートとデザインの関連の観点から20世紀の椅子の歴史を振り返ろうとする展覧会だが、そうした、ありそうでない企画が実現されるのも、同館の歴史ゆえのことだろう。
 本展では、オットー・ワーグナーやアントニオ・ガウディなどのアール・ヌーヴォーの時代に始まり、エットーレ・ソットサスや磯崎新などのポスト・モダンの時代に至る20世紀の椅子の歴史が100点を超える所蔵品により概観される。この点だけでも日本では稀な機会だが、さらに面白いのはそれらの椅子と同時代のアートが併せて展示されることだ。カンディンスキーやクレーといった、バウハウスの美術家の絵画を、同じくバウハウスのブロイアーやミースの椅子とともに展示することはけっして珍しくないが、横尾忠則の絵画と倉俣史朗の椅子という組み合わせには驚く人もいるのではないだろうか。実はこのふたりは1960年代にコラボレーションを行なったことさえある仲である。そうした事実を知らなくても、椅子のデザインが同時代のアートの影響を、造形面でもコンセプトの面でも受けていたことは展示品自身が語ってくれる。椅子は「アート」ではなくとも、「造形」ではあるのだ。本展ではさらに、剣持勇や渡辺力など、戦後日本の名作椅子も体系的に展示される。彼らの格闘の成果ともいうべきそれらの椅子は、あらためて「椅子」が西洋由来のものであることをわれわれに気づかせてくれるだろう。[橋本啓子]

2012/09/30(日)(SYNK)

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