artscapeレビュー
ライク・サムワン・イン・ラブ
2012年10月01日号
会期:2012/09/15
ユーロスペース、新宿武蔵野館[東京都]
アッバス・キアロスタミ監督作品。日本を舞台にした物語を、日本人俳優に、日本語で演じさせた。ただ物語とはいうものの、そこはキアロスタミの「物語」。いかにも劇的な物語を起承転結の構造によって展開させる凡百の映画とは対照的に、私たちの中庸な日常をただ切り取り、無作為のまま観客に投げ出したような映画である。無邪気で幼い悪意、束縛する狂気、愛情の押し売り。誰もがどこかで身に覚えのある人生の一場面に直面させ、にもかかわらず教訓めいたメッセージに導くことはなく、たちまち映画を終えてしまうところが、このうえなくおもしろい。この無愛想なまでの潔さは、もはやある種のエンターテイメントであると言ってもいい。その類い稀なる芸風の一方で、おそらく人生とはこんなものなのだろうという諦念を感じさせるところもまた、キアロスタミならではの「物語」なのだろう。
2012/08/21(火)(福住廉)