artscapeレビュー
「具体」ニッポンの前衛 18年の軌跡
2012年10月01日号
会期:2012/07/04~2012/09/10
国立新美術館[東京都]
「具体」はあまりにも過剰に高く評価されているのではないか。戦後美術史に大きな足跡を残したこの前衛美術のグループを総覧した本展の意義は決して小さくない。けれども、18年にも及ぶ長大な美術運動の軌跡を見ていくと、そこには明らかに前衛美術の典型的な変転の過程が垣間見える。すなわち、ラディカリズムからマンネリズムに、ストリートのアクションから美術館のアートに、そしてわけのわからない表現からわけのわかる絵画に。とりわけミシェル・タピエの「お墨付き」を貰って以後、「具体」の作品が軒並み絵画に収斂していく様子は、なんとも物悲しく、やるせない気持ちになる。「これまでなかったものをつくれ」という吉原治良の野心的なテーゼが、「絵画」という既存の枠組みにからめとられ、飼いならされていく過程が手に取るようにわかるからだ。だが、多くの前衛美術家たちが、アナーキーで破壊的な表現活動に邁進しながらも、ある一定の年齢になると、ほとんどが絵描きに回帰していることを考えると、この変転は「具体」の特異性というより、前衛美術運動に共通する一般性なのだろう。むしろ、この変転のプロセスを解散もしないまま運動として持続しながら体現したところに、「具体」ならではの特殊性があるのかもしれない。
2012/09/03(月)(福住廉)