2020年09月15日号
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artscapeレビュー

ウィリアム・モリス 美しい暮らし──ステンドグラス・壁紙・テキスタイル

2013年10月01日号

会期:2013/09/14~2013/12/01

府中市美術館[東京都]

キャッチコピーは「“いちご泥棒”現る」。チラシなどのデザインに用いられている《いちご泥棒》(Strawberry Thief、1883)は、ウィリアム・モリス関連の展覧会では必ずといっていいほど出品される代表的な作品のひとつ。デザインのモチーフとなっているのは、ケルムスコット・マナーで育てていたイチゴをついばみにきたツグミ。モリスはこれを印象的なファブリックのデザインに仕立てた。そしてさらに注目すべきはその染色技術である。すでに化学染料が一般化していた当時、モリスは天然染料であるインディゴの使用にこだわった。しかし、インディゴは木版による捺染ができないために、モリスが用いていた従来の方法では文様を染めることができない。試行錯誤の結果、いったん布全体をインディゴで青く染めたあと、漂白剤を入れた糊を捺染して文様を抜く「抜染」という技法を用いた。そして白く抜いた部分にさらに木版で複数の色を捺染することによって、深みのある複雑な柄を染め上げた。制作には他の作品よりも手間がかかるために、モリス商会の綿プリントのなかでももっとも高価な商品であったという。
 ウィリアム・モリスの仕事は、デザイン、織や染色などの工芸、社会主義思想、印刷など多岐にわたり、その影響も欧米のアーツ・アンド・クラフツ運動から日本の民藝運動まで幅広い。これまでに開催されてきた展覧会の切り口もさまざまである。今回の展覧会のキーワードは「美しい暮らし」。ここではモリス自身に焦点をあて、彼の目指した美しい暮らしの足跡をたどる。出品作はおもにステンドグラス(フィルムによる複製)、壁紙、そして織りと染めのテキスタイル。時代や素材によって明確に区分するのではなく、ゆるやかなつながりでモリスの思想を追う構成になっている。ステンドグラスは、モリスとその仲間たちにとって初期の主要な仕事であった。当時はエナメルで着色したガラスが用いられることが一般的であったが、モリスらは多くの教会のために古くからの技法である色ガラスを用いたステンドグラスを制作している。壁紙やテキスタイルにも古くからの技術と文様の研究成果が用いられたが、自らの家の庭の植物をモチーフとしたデザインもまた多く用いられている。多様な仕事をたどっていくと、急速に進行しつつあった近代化・工業化への批判としてのモリスの美意識、ものづくりへのこだわりが見えてくる。そして、こうしたモリスの思想、デザイン、そして技術的探求の姿を追っていくと、その到達点のひとつとして《いちご泥棒》の意味が見えてくる。モリスの仲間たちの仕事も含めて全95点と比較的小規模な展示であるが、ウィリアム・モリス入門といえる構成である。[新川徳彦]

2013/09/25(水)(SYNK)

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