2020年09月15日号
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artscapeレビュー

PARTY そこにいない。展

2013年10月01日号

会期:2013/09/04~2013/09/28

ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]

遠い場所で起きている出来事を離れた場所で見る、聞くという行為は、ラジオやテレビという媒体でも可能であるが、その感動、驚き、悲しみの感情を、互いに離れた場所にいる視聴者同士が同時に共有することは難しい。しかし携帯電話のメール、twitterやLINEなどのサービスの登場によって、その出来事の場にいなくても、人々はそれを視聴し、互いの感想をほぼタイムラグなく共有することができるようになってきた。もはや私たちはなにかが起きているその場にいなくても、そこにいるのと同様の体験が可能である。伊藤直樹、清水幹太、中村洋基、川村真司らによって2011年に設立されたクリエイティブラボ「PARTY」は、こうした新しい技術がもたらす新しい体験を活かした仕事を多数手がけているユニットであり、何れのメンバーも数々のデザイン賞・広告賞を受賞している。「PARTY そこにいない。」展は、彼らの仕事を紹介する展覧会である。
 会場を入ってすぐ裏側の壁には、PARTYのオフィスの写真が貼られている。その前には展望台にあるような望遠鏡。覗くと、現在のPARTYのオフィスの様子が見える。オフィスに置かれたカメラと望遠鏡が連動しており、望遠鏡の向きを変えるとカメラの視界も移動するしくみである。無印良品の旅行用品「MUJI to GO」のキャンペーンを紹介するコーナーでは、キャンペーンのロケ地ホワイト・サンズで吹いている風のデータによって送風機を動かし、リアルタイムでホワイト・サンズの風を再現する。もっとも面白かったのは過去のCM作品や、NHK「テクネ 映像の教室」の映像作品を紹介するコーナー。彼らの過去の仕事はウェブサイトで見ることができるのだが、展覧会場ではそれを一風変わった方法で見せている。プロジェクターの前のリモコンの数字を押すと見たい映像を再生できるしくみ。と書くと、極めて普通の話なのだが、プロジェクターに写っているのはどこかの誰かの部屋のテレビ。展覧会場のリモコン・ボタンを押すと、その部屋の誰かのiPhoneにメールが届き、その誰かが部屋のテレビのリモコンを押して画面に写る番組を変えてくれるのだ! つまり、私がリモコンによってコントロールしているのはテレビではなく、どこかの部屋にいる誰かということになる。そして展覧会場にいる私は、どこかの部屋に設置されたテレビを写すカメラの映像を、ネットを通じて目の前のプロジェクターで見るという、デジタルなのかアナログなのかよくわからない体験をするのである。
 彼らが使用しているコンピュータやソフトウェアなどの新しいテクノロジーの変化の速度は速い。すぐに陳腐化してしまうのではないだろうか。否、伊藤直樹はメッセージを伝えるものはテクノロジーや仕組みではなく、人の心を動かすものは表現であるということを強調する★1。じっさい、伊藤の過去の仕事を見ると、「仕組み」はつねに更新されているが、身体を使うこと、皮膚で感じること、人と人とがコミュニケーションを計ること、感動を共有することといった、表現の基本は変わらない。彼らにとって、テクノロジーは「表現」に新しい体験を与える媒体、インターフェースという位置づけにあると考えられようか。[新川徳彦]

★1──伊藤直樹『「伝わる」のルール──体験でコミュニケーションをデザインする』(インプレスジャパン、2009)、188頁。

2013/09/06(金)(SYNK)

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