2020年09月15日号
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artscapeレビュー

田口行弘 展「Makeover」

2013年10月01日号

会期:2013/08/17~2013/09/14

無人島プロダクション[東京都]

和田昌宏とは一味違った妙味を見せたのが、田口行弘である。ドイツを拠点にしながら世界各国を渡り歩いているが、本展ではその旅の軌跡を各地で制作した映像作品によってたどった。
田口といえば、ストップモーションアニメ。人や物を少しずつ動かしながら写真に撮影し、それらをつなぎ合わせて動画として見せる。本展でも、現地の人や物を被写体にしたストップモーションアニメを存分に披露した。とりわけキューバの作品は、鮮烈な色彩と軽快な音楽が相まって、映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のような空気感を醸し出していた。
今回改めて注目したのは、田口の作品に流れる時間性である。これまで気がつかなかったが、田口の作品は基本的には通常の時間軸に沿いながらも、時間に逆行する一面もあるのだ。ストップモーションアニメが時系列に則って編集されていることは言うまでもない。ただ、随所で用いられているクローズアップの先に場面転換を図る手法だけは、過去に遡行している。そのクローズアップの先に用意されている写真は、過去に撮影していなければこの世に存在しないからだ。すなわち、先へ先へと進んでいく時間性に基づきながらも、要所要所で過去へ立ち戻るのだ。
それゆえ、作品の全体を見渡してみると、田口の作品は未来へ向かって前進しているように見えるが、じつは明らかに過去へ向かっている。ここにベンヤミンが示した後ろ向きの天使のモデルを重ねることもできなくはない。けれども、田口のストップモーションアニメの醍醐味は、言ってみれば進歩主義の身ぶりを呈した回帰主義にあるのではないだろうか。進歩主義を無邪気に信奉する時代は終わった。今後は、進歩のふりをして回帰する、いや回帰することが進歩になりうるという時代になるはずだ。田口行弘の作品には、その時代の変転が刻まれている。

2013/09/04(水)(福住廉)

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