2020年09月15日号
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artscapeレビュー

幸村真佐男 展 | LIFE LOG─行雲流水─

2013年10月01日号

会期:2013/08/02~2013/08/31

N-MARK B1[愛知県]

日本におけるコンピュータ・アートの先駆者ともいえる幸村真佐男の個展。今年で70歳を迎える幸村の作品に、ただただ圧倒された。
展示されたのは、代表作である《非語辞典》と、文字どおりのライフワークである《LIFE LOG》。コンピュータによって文字をランダムに組み合わせる《非語辞典》は、ありうる文字の配列を計算可能な限りすべて網羅する、とてつもない作品だ。印刷された紙はすべて製本され、事典のように分厚い本として見せられる。本展で発見された《行雲流水》は、四字熟語のうち「雲」と「水」だけを固定したうえで、残りの2つにありとあらゆる漢字を当てはめていくもの。規則的に変換していく漢字の様態に美しさを感じないわけではないが、それより何より、あまりにも膨大な漢字の質量に辟易せざるをえない。
その圧倒的な質量は《LIFE LOG》でも十全に発揮されている。幸村自身が日常的に撮影してきたスナップ写真、およそ300万枚をつなぎ合わせ、それらを高速で見せていく。そのスピード感は凄まじく、とても被写体を正しく認識することなどかなわない。しかもすべてを見ようとした場合、27時間も必要とされるという。
幸村の作品に顕著なのは、強力な身体性である。それが従来のコンピュータ・アートやコンセプチュアル・アートに見られない特質であることは間違いないが、だからといって身体パフォーマンスや手わざの痕跡を直接的に感知できるわけでもない。正確に言えば、目に映る文字や写真といったメディアの背後に、幸村自身の並々ならぬ衝動や欲望をまざまざと感じ取ることができるのだ。こうした表現のありようは、ひそやかで思慮深い、今日の若いアーティストには望めない特質だが、だからこそひときわ輝いている。

2013/08/24(土)(福住廉)

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