artscapeレビュー
パラモデルの世界はプラモデル
2010年08月15日号
会期:2010/06/26~2010/08/01
西宮市大谷記念美術館[兵庫県]
エントランスホールはまさに工事現場のイメージ。工事中の柵があり、会場の柱を金網が取り囲んでいる。辺りに積み上げられた段ボールや床に置かれた工具箱など、あらゆる箱に車輪のようなものが付き、区切られたスペースに収まり整列していた。プラレールのインスタレーションから写真、アニメーション、立体作品、絵画などパラモデルのさまざまな作品が館内いっぱいに繰り広げられた個展。館全体も車に見立てられているのだが、はては世界全体、宇宙までも“動産”というイメージでいたるところに、駐車場を表わす「P」の文字や落書きのように描かれた車輪を見つけることができる。これまで何度もプラレールのインスタレーションは目にしたが、本展で床から天井まで張り巡らされたそれは特に、植物や風景をイメージしたモチーフの連なりが造形的に美しく壮観。会期も後半になって訪れたが、2階の展示室ではグレーのパイプのユニットを継ぎ合わせて増殖させていく作品がまだまだ制作中という状態。ラジオ放送が流れ、まさに作家自身の制作アトリエさながらの雰囲気のなかで、作家が来場者と和やかに会話し、展示作業を続ける光景も微笑ましかったが、この展示室はあと二日で終了という日もまだ作業が続いていた。タイトルは《無限会社パラモデル・パイプライン》。タイトルリストに7月中旬完成予定と記載されていたが、もしかすると最終日まで展示作業は続いたのかもしれない。二度目に訪れたときには、もはや会期終了後の搬出作業を想像して恐ろしい気分にもなったが、現実の切なさが果てない空想や夢の世界と隣り合わせにうかがえるのもパラモデルらしく、それも含めて素敵な展覧会だった。
2010/07/17(土)(酒井千穂)