2019年07月01日号
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artscapeレビュー

田中純『イメージの自然史』

2010年08月15日号

発行所:羽鳥書店

発行日:2010年6月21日

筆者と同じ頃、すなわち1990年代の半ばに『10+1』で論考を書きはじめた田中純の最新作である。その動向には注目していた。当時、ベンヤミン再評価の流れが起きていたが、田中はおそらくその最良の成果となる都市論を執筆している。建築学科に所属する筆者が、やがて展覧会や審査などの仕事を通じ、創作の現場から建築と関わらざるをえなくなったのに対し、人文学を出自とする田中は、多木浩二のたどってきた道とは違い、創作者らと一定の距離をたもち、それゆえに批判的を言説を繰りだす。そして本書は、むしろ古今東西のイメージをさまようヴァールブルクの「ムネモシュネ」プロジェクトを現代において蘇生させたかのような原型的イメージをめぐる考察を行なう。『イメージの自然史』は、主に東京大学出版会の『UP』の連載をベースとしており、筆者も掲載時から断片的に読んでいた。改めて通読すると、相変わらず、ものすごい読書量であり、めくるめくイメージの連鎖の世界に誘う。読書という豊かな経験を思い出させてくれる本だ。実際、そうした本へのフェティシュを感じる。田中は最後に、こう言う。ネットワークの時代において、本という「『暗いおもちゃ』は、一冊一冊が異なる表情で佇みながら、どこか不穏な気配を漂わせている。液晶ディスプレイにはない暗さ、その翳りに、小さな生き物を思わせる生命が微かに宿る。……本書は、夕陽のように翳りを帯びた書物のアウラ、その儚い生命のイメージに捧げられてる」。なるほど、あえて主流にはのらない、懐かしさも感じられるかもしれない。過去や記憶なきネットとアーキテクチャ論、社会学的な言説、工学主義への注目、そうしたゼロ年代のメインストリームに対して、直接名指しすることはほとんどないが、密やかに、そして強靭に抵抗している。

2010/07/31(土)(五十嵐太郎)

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