artscapeレビュー
渡邊博史「LOVE POINT」
2010年08月15日号
会期:2010/07/07~2010/07/20
銀座ニコンサロン[東京都]
渡邊博史は『私は毎日、天使を見ている』(窓社、2007)でエクアドルの精神病院を、『パラダイス・イデオロギー』(窓社、2008)では北朝鮮への旅をテーマにした写真集を刊行し、写真展を開催した。そして今回の「LOVE POINT」のシリーズでは、「ラブドール」(いわゆるダッチワイフ)というとても興味深い被写体にカメラを向けている。シリーズごとにまったく違う領域にチャレンジしているわけで、その意欲的な姿勢は高く評価されるべきだろう。とはいえ、彼の基本的な関心が「人間」と「人間ならざるもの」(あるいは「人間モドキ」)との境界線を見定めることにあるのは明らかだ。精神病者にしても、北朝鮮のどこかロボットめいた兵士やウェートレスにしても、そして今回の「ラブドール」たちにしても、どこまでが本物でどこからが偽物なのかが、写真というイメージ生成装置を介することで曖昧に見えてくるのだ。さらに今回はそれに輪をかけるように、「ラブドール」の写真に、生身の少女たちにメーキャップしてコスプレの衣裳を着せてポーズをとらせた写真が紛れ込んでいる。そのあたりの微妙な計算が隅々まで行き届いていて、見る者を謎めいたイメージの迷路に引き込んでいく。なお「LOVE POINT」という印象的なタイトルは、同時期に冬青社から刊行された写真集の表紙にも使われた、店の看板の写真から採られている。渡邊が岐阜県中津川で偶然撮影したものだそうだが、女の子の横顔の上に記されたこの言葉がやはりうまく効いているのではないだろうか。写真を見る者一人ひとりが、そこからそれぞれの物語を育てることができそうに思える。
2010/07/18(日)(飯沢耕太郎)