2019年07月15日号
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artscapeレビュー

飯沢耕太郎 森重靖宗を読む

2010年08月15日号

会期:2010/07/25

Sound café dzumi[東京都]

森重靖宗は1963年大阪生まれ。普段はmori-shigeという名前でチェロ奏者として即興演奏を中心に活動している。写真を本格的に撮りはじめたのはここ10年あまりだが、5月に写真集『photographs』(パワーショベル)を刊行した。今回はその出版にあわせて、「プロの写真の読み手の話を聞いてみたい」ということで実現した企画であり、北里義之プロデュ─スによる「混民サウンド・ラボ・フォーラム」の一環として、吉祥寺の音楽カフェで開催された。森重の写真はとりたてて気を衒ったり、特別な被写体にカメラ(ライカM3だそうだ)を向けたりしたものではなく、基本的には日常の場面をスナップしたものだ。ただ、ものを見る角度に音楽家らしいセンスのよさがあり、写真の並べ方にもリズム感があってすっと目に馴染じんでくる。ただ、何げなさそうに見えて、ところどころに落とし穴が仕掛けられている。例えばかなりの枚数が収録されている入院中の年配の男性の写真があって、その中の一枚を見ると右足の膝から下がないのがわかる。あるいは下着姿の女性の背中にカメラを向けた写真があり、彼女が横たわるベッドのシーツの血の色が、それ以後も何度も反復して繰り返される。このような微妙な手つきから浮かび上がってくるのは、薄皮一枚下に何かしら不穏な気配を抱え込む日常のあり方だ。それらの場面には、さまざまな引力や斥力がせめぎあっていて、ちょっとした刺激で破裂しそうな緊張感を覚えるのだ。今回のイベントでは、トークに加えて、写真集におさめた写真を2倍以上に拡張した200枚あまりの映像によるスライドショーと、チェロによる即興演奏がおこなわれた。音楽を聴いていても、写真と同様に薄い皮膜を少しずつ引き伸ばしていくような印象は変わらない。森重の作品のような「異種格闘技」的な試みはとても貴重なものだと思う。僕自身も普段とは違った感覚が覚醒してくる気がした。

2010/07/25(日)(飯沢耕太郎)

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