2019年11月15日号
次回12月2日更新予定

artscapeレビュー

田淵行男記念館20周年記念シンポジウム 田淵行男作品と今後の自然・山岳写真について

2010年08月15日号

会期:2010/07/10

安曇野市穂高交流学習センター“みらい”多目的交流ホール[長野県]

自然写真・山岳写真を対象にした第3回田淵行男賞の受賞作品展(7月2日~27日)を開催中の安曇野市穂高交流学習センター“みらい”で、「田淵行男記念館20周年記念シンポジウム」が開催された。パネリストは写真家の水越武、宮崎学、海野和男、アサヒカメラ編集部の三島靖で、僕も司会を兼ねて参加した。パネリストが異口同音に口にしてしていたのは、ここ10年間のデジタル化の進展がもたらした多大な影響である。デジタルカメラやプリンター、インターネットなどの発達は、ハード面においてはかなり悪い条件でもシャープな画像を手に入れ、広く送受信することを可能にした。たしかに10年前ならば田淵行男賞に届いたかもしれない作品が、今回は入賞作の選からも漏れるというようなことも起こってきている。逆に技術的に横並びの写真が増えてくると、シリーズとしての編集能力や写真を支える「思想」や「哲学」の質が問われることになる。今回田淵行男賞を受賞した中島宏章(北海道)の「BAT TRIP」や準田淵行男賞の金子敦(長野県)の「オオムラサキとともに─共生地の記録から─」は、そのあたりの取組みの姿勢が明確だったということだろう。もうひとつ大きな話題になったのは、自然写真・山岳写真の発表の媒体が大きく変わりつつあるということだ。雑誌の休刊や廃刊が相次ぎ、写真集の発行部数も落ちている。そんななかでインターネットや電子出版が大きくクローズアップされているわけだが、それもまだどのような形で写真を見せていけばいいのか、またそこからどのように収入を生むのかは模索の段階にある。水越武は、逆に写真の原点に戻って、モノクロームのプリントをギャラリーなどで販売するという方向をより強く打ち出そうとしているという。だがこのような混乱は、考え方によってはアマチュアもプロも関係なく、新たな動きが形をとってくる可能性があるということではないだろうか。次回の田淵行男賞は5年後に予定されている。その時自然写真・山岳写真の世界がどんなふうに変わっているのかが、逆に楽しみだ。

2010/07/10(土)(飯沢耕太郎)

2010年08月15日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ