artscapeレビュー
渡邊聖子「結晶」
2010年08月15日号
会期:2010/07/08~2010/07/20
下北沢の現代美術スペース、現代HEIGHTSの小さな部屋で5月から開催されている連続展(企画/言水制作室)。田島鉄也(ペインティング)、七七(視覚詩)、早川桃代(ドローイング)に続いて渡邊聖子の作品が展示された。内容的には渡邊がこのところずっと試みている、写真、ガラス、ゴムなどを使ったインスタレーションの延長上の作品である。写真のコピーやドローイングを綴じあわせた皺くちゃの紙の束がダンボール箱に入れられて放置され、ガラスとゴムの板が床に置かれ、波をかぶった巨大な岩の写真がフレームにおさめられて壁に立てかけてある。これらの全体から浮かび上がってくるのは、事物の「物質性」が写真やコピーによって「像化」され、ガラスやゴム板による干渉を被ることで、どのように変質し、イメージそれ自体の「物質性」を獲得するのかというプロセスである。その変化の相を、部屋の床や壁の触感も巧みに活かしつつ、細やかに検証しようとしている。興味深いのは、コピーの束、ガラス板、岩の写真などの道具立てが、ある種のセットとして扱われていること。つまり、同じ材料が異なった環境にインスタレーションされることで、微妙に違った見え方をしてくるのだ。はじめて見る観客にはそのあたりがわかりにくいのが難点だが、展示を続けて見ていると、その枝分かれしつつ増殖するようなあり方がなかなか面白い。いっそのことセットを完全に固定してしまって、もっと積極的に(ゲリラ的に)いろいろな場所で展示してみてもいいかもしれない。
2010/07/17(土)(飯沢耕太郎)