artscapeレビュー
三宅理一『秋葉原は今』
2010年08月15日号
発行所:芸術新聞社
発行日:2010年6月21日
日本でもっとも有名な電気街であり、ゼロ年代にはオタクの聖地として注目された、秋葉原に関する最新の都市論だ。森川嘉一郎のアキバ論『趣都の誕生』(幻冬舎、2003)に比べて、安心して読める。むろん、三宅理一は、2004年から「D-秋葉原」構想の当事者として、再開発の一部に関わった経緯もあるが、歴史家として、もっと長い歴史的なパースペクティブから、この街の変容を描いているからだ。そしてグローバルな視点から、海外の事例と比較しながら、秋葉原の位置づけを行なっていることも説得力がある。萌えというオリエンタリズム的なキーワードで読み解くのではない。本書は、2006年にグランドオープンしたUDXビルを含む、一連の再開発が、いかなる経緯でスタートし、どのように展開したかの流れを、法制度や経済状況、また事業者の関係などから複合的に分析する。詳しく説明される日本における、都市計画の手続きは興味深い。残念なのは、ゼロ年代になって、地元の意向が反映されなくなったことだ。例えば、第二東京タワーの誘致問題や、ヨドバシカメラの駅前進出などである。その起死回生として持ち上がったD-秋葉原のプロジェクトも、中止に追い込まれたことだ。おそらくデザインミュージアムなどが実現すれば、画期的な施設になっただろう。経済の自由競争によって発展した秋葉原が、その同じ原理によって異なるものに変わってしまい、再開発が終わったときには、ほとんどの当事者がいなくなっていたというのは皮肉である。
2010/07/31(土)(五十嵐太郎)