artscapeレビュー

湯沢英治「REAL BONES」

2010年08月15日号

会期:2010/07/02~2010/09/08

ジィオデシック[東京都]

2008年に写真集『BONES 動物の骨格と機能美』(早川書房)を刊行した湯沢英治の個展。たしかに動物や魚類の骨をクローズアップで撮影すると、あたかも壮大な建築物を見ているような気持ちを起こさせる。そういえば、アーヴィング・ペンにも『頭骨建築(Cranium Architecture)』(1988)という写真集があった。だが、中目黒のジュエリー・ショップで開催された今回の個展を見ると、湯沢の関心がペンの作品のようなスケール感を求めるのではなく、むしろ骨の細部の繊細な構造に向かっているのがわかる。「動物が小さくなればなるほど、骨の構造が緻密になってくる」のだ。その意味では今回展示された旧作よりも、まだポートフォリオの形にしかなっていない新作の方が興味深かった。小さな鳥類や魚類の骨格が、本当に細やかに絡みあっている様子は、どこか希薄で透明感があり、まさに暗闇で光を放つ宝石のような美しさなのだ。また骨の背景の処理も以前は黒バックが中心で、どちらかといえば図鑑的だったのだが、一部に淡い光を取り込むことで、空間の奥行き感が強まっている。骨というテーマを的確に表現していくとともに、独自の作品世界を構築していこうという意欲を感じさせる。もともと湯沢が写真を撮影し始めた動機は、シュルレアリスム的な表現が可能ではないかと思ったことだったという。今後は骨を単独で撮影するだけでなく、ほかの骨やオブジェと組み合わせたり、その置き場所を工夫したりするなど、さらなる展開も充分に期待できるのではないだろうか。

2010/07/03(土)(飯沢耕太郎)

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