artscapeレビュー

2011年11月15日号のレビュー/プレビュー

進藤環「蒔いた種を探す」

会期:2011/09/23~2011/10/16

hpgrp GALLERY 東京[東京都]

進藤環は武蔵野美術大学大学院油絵コースを修了後、東京綜合写真専門学校で写真を学び直した。2009年の新宿眼科画廊での個展「動く山」の頃から、各地で撮影した植物群の写真をつなぎあわせ、実際にはありえない奇妙な風景をつくり出すようになった。植物、岩、大地、水、空が不規則に融合し、微妙にメタモルフォーゼしていく色相に包み込まれたその場面は、天国とも地獄ともつかない独特の触感を備えている。
このような画面構築の操作は、普通はパソコン上でフォトショップなどのソフトを用いて行なうのだが、進藤はあえて鋏と糊を使って切り貼りする古典的なコラージュの手法にこだわっている。そうやって出来上がった写真を、あらためて複写して大きく引き伸ばすのだ。少しずつ画面が変容しながら完成に近づいていく、その制作のプロセスそのものが、彼女にとってはとても大事なものなのだろう。同時期にルミネ新宿で開催された「LUMINE meets ART」(9月27日~10月31日)の出品作に寄せたコメントで「室内にいるのに、ふっと外に、森にいく。異空間につながる。その掛け渡しができればなと思います」と書いている。たしかに、その「掛け渡し」の意識が、コラージュの継ぎ目のあたりから漂い出てきているように感じた。

2011/10/05(水)(飯沢耕太郎)

ベネッセアートサイト直島

直島、豊島、犬島[香川県、岡山県]

いずれも初めての訪問ではなかったが、直島、犬島、豊島など、瀬戸内海におけるベネッセが手がけた建築・美術プロジェクトをまとめて見学する機会を得た。テンポラリーなものよりも、常設で残っていくものを制作してきたことが改めてうかがえる。安藤忠雄によるミュージアムをオープンしたのは1992年であり、もうすぐ20周年。民家を改造し、宮島達男の現代美術を導入した家プロジェクトは、1998年であり、越後妻有トリエンナーレよりも早い。こうして瀬戸内国際芸術祭の成功への種をまいてきた。

写真は上から、
宮島達男《Sea of Time'98》(家プロジェクト、角屋)
森万里子《トムナフーリ》(豊島)
設計:妹島和世、アートワーク:柳幸典《眼のある花畑》、アートディレクター:長谷川裕子(家プロジェクト、犬島)

2011/10/05(水)(五十嵐太郎)

建築夜楽校2011「3.11以後の日本─国土・災害・情報」(分析編)

会期:2011/10/06

建築会館ホール[東京都]

中島直人は今こそ脱皮した都市計画が求められると語り、計画学の小野田泰明はぎりぎりで建築家の必要性を唱えたのに対し、磯崎新は南三陸町の津波で壊れた防災庁舎の写真を映しながら、以前から唱えていた近代的な「計画」概念の失効を指摘した。いまの時代は「プロジェクト」なのだという。こうした文脈を踏まえると、小野田は旧来の計画システムの内部に入り込みながら、プロジェクトを稼働させることを考えているのではないか。

2011/10/06(木)(五十嵐太郎)

中島麦「悲しいほどお天気」

会期:2011/09/09~2011/10/10

gallery OUT of PLACE[奈良県]

中島麦が新作を発表していた。大通りから少しだけ離れた静かな住宅街の路地にあるギャラリーの、外から見えるガラスのショーケースに木漏れ日をイメージさせる絵画が展示されていたのだが、そこに実際に木漏れ日が当たり、ざわざわと揺れ動く葉の影が重なっていた。画面の表情が豊かに変化して見えるその光景が美しい。今展では、ギャラリー内の壁全面に描かれた壁画も新たな試みの大作で見どころだった。青や水色の色面が印象的なその壁画を見て、一緒に訪れた母が「クジラのような海の大きな生き物に見える」「停泊した船と穏やかな湾」と、私には想像もつかなかったイメージを語っていたのが新鮮だったが、さらにファイルに収められたドローイングや、ずらりと並んだ壁画と同形の小作品を見ながら「ダイナミックだけど日本画のような繊細な趣き」と言っていて興味深く思った。また今回は、夏に東北を旅した際に撮影した写真を繋ぎ、映像にした作品も発表。会場全体が風景、時間、季節、天気といくつもの要素が連関して成り立つ作品となっていた。

2011/10/07(金)(酒井千穂)

スマートイルミネーション横浜

会期:2011/10/07~2011/10/09

象の鼻パーク+山下公園+元町ショッピングストリートほか[神奈川県]

横浜港発祥の地にある象の鼻テラスが、「都市観光とアートの融合」を目指して展開する光を用いたアートプロジェクト。都市の夜景を彩るイルミネーションといえば、阪神大震災の起きた1995年に始まる神戸ルミナリエがまず思い浮かぶ。地震後にイルミネーションが発想されたのは、犠牲者の鎮魂と都市の復興にふさわしいと考えたからだろう。この「スマートイルミネーション」にも、きっとそんな思いが込められているに違いない。もちろん「ブルー・ライト・ヨコハマ」からの連想もあるが。プレスツアーは、イルミネーションスーツをまとった日下淳一がうろつく象の鼻からスタートし、藤本隆行らがライトアップする通称キング、クイーン、ジャックの3塔を見ながら、高橋匡太による《ひかりの実》を設置した元町商店街や山下公園などをバスで巡回。いったん象の鼻に戻り、今度は船に乗って海から夜景をながめる約1時間のナイトクルーズ。これは快適、まさに「観光」。でも全体的にイルミネーションはちょっとさびしかったなあ。とくに元町商店街ではほとんど目立たない。鎮魂と復興が隠れテーマならもっとハデに繰り広げてほしかったけど、震災と津波だけでなく原発事故まで引き起こしてくれたおかげで、消費電力を抑えなければならない事情もある。目立ちたいけど目立っちゃいけない──この矛盾を解決する最終兵器が、省エネのLEDだ。タイトルの「スマート」にも省エネの意志が組み込まれている。

2011/10/07(金)(村田真)

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