2022年05月15日号
次回6月1日更新予定

artscapeレビュー

2011年11月15日号のレビュー/プレビュー

小野耕石「削柱移植」

会期:2011/10/07~2011/10/23

アートフロントギャラリー[東京都]

セミの抜け殻や鹿の頭蓋骨の表面に、さまざまな色が層になった突起が無数についている。なんかキモイなあ。この色の層、実は版画の技法でつくったものだという。直径数ミリのドットを同じ版で同じ場所に色を変えながら100回くらい刷って積み上げた柱なのだ。この色の柱を削り取って別の物体に移植したのが、今回の「削柱移植」シリーズ。なんて妙なことをするアーティストだろう。だれも真似をしないだろうし、真似したくてもできないという意味ではきわめてオリジナリティが高い作品だ。それにしてもなんでセミの抜け殻や動物の頭蓋骨なの? どちらも生命が宿っていた抜け殻だが、そこに色の柱を立てることにどんな意味があるの? ナゾは深まるばかりだ。

2011/10/14(金)(村田真)

代官山インスタレーション2011

会期:2011/10/09~2011/10/30

代官山界隈[東京都]

今年で7回目を迎えた野外インスタレーションのコンペ。前回までとなにか違いがあるとすれば、審査員のひとり中原佑介さんが亡くなり、代わりに北川フラムさんが加わったこと。もともと北川さんは主催者側の人間だから、この変更によって審査の方向性が変わることは考えにくい。でも今回は、毎回ひとつはあった思わずうなってしまう奇抜なプラン、思わず笑ってしまうおバカな作品が影をひそめたように感じるのは気のせいか、それともナンセンスをこよなく愛した中原先生が抜けたせいか。ちょっとおバカだったのは、河地貢士の《まんが農業》。分厚いマンガ雑誌の印象深かったページに野菜の苗を植え、水をまいて育てるというプランだが、残念ながらサイトスペシフィックではない。平賀俊孝×佐々木尚之の《象徴的生活感》とZEMIの《ヒルサイドFM》は、どちらも街なかにブースを設け、ガラス張りのなかで人が活動するというプラン。これは新しい傾向かもしれない。一方、ヒルサイドテラスの裏にある屋敷を際立たせるため、駐車場に四角い大きな枠(額縁)を設けた松本明子+鈴木将記の《A邸~都市の記憶~》は、プランの段階では感心したものの実際にはそれほど効果的でなかったのが惜しい。さて、いま挙げた四つのプランはどれも四角を基本としていることに気づいた。四角いマンガ雑誌、四角いガラス窓、四角い枠……。そう思って残りの作品を見直してみると、やはり四角(ボックス、道しるべ)もしくは円(ボール、自転車)を基本としていることが判明。単なる偶然だろうけど、この幾何学偏重は興味深い。

2011/10/14(金)(村田真)

横浜を撮る!捕る!獲る! 横浜プレビュウ

会期:2011/10/14~2011/11/06

新・港村(新港ピア)全体[神奈川県]

中平卓馬、森日出夫、石内都といった大御所から、佐久間里美、三本松淳らの若手まで、横浜をテーマにした写真展。新・港村には大小三つのギャラリーがあるが、作品はギャラリーだけでなく四つのゾーンに分かれた村全体に散りばめられている。宮本隆司と佐藤時啓はピンホールカメラで新港ピアや関内をとらえ、楢橋朝子は大岡川の水面から風景を撮影、山崎博はおそらく港の明かりを浮遊する光として表現、小山穂太郎は横浜港を撮った巨大なモノクロ写真をつなげ、逆に鈴木理策は小さな写真で展示を重視、といったように作品も展示も各人各様。それはいいのだが、同時期にBankARTスクール飯沢耕太郎ゼミの発表や東京芸大の写真展なども重なり(「アペルト」とも呼ばれる)、それらの展示も各所に散らばっているので、いったいどれがだれの作品なのかわかりにくい。まあだれの作品かわからなくても、見れば質の違いは歴然だけどね。

2011/10/14(金)(村田真)

UNDER35 中谷ミチコ展

会期:2011/10/14~2011/11/06

UNDER35ギャラリー[神奈川県]

中谷ミチコといえばレリーフだが、いわゆる「浮き彫り」とは反対に「沈み彫り」とでもいうべき技法で彫り、そこに透明樹脂を流し込んで固めたものが代表的だ。凹凸が逆になるため不気味な陰影や立体感を醸し出す。今回も「沈み彫り」が何点か出ているが、圧巻はオオカミのような動物が何頭か群がった浮き彫りのほうだ。絡み合った身体やウロコのような毛並みまでリアルに表現されている。沈み彫りは物理的に四角い枠と厚みが必要だが、浮き彫りは枠が必要ないので現実空間との関係が直接的になり、よりリアルに感じられるのだろう。沈み彫りがタブローに近いとすれば、浮き彫りは壁画に近いといえるかもしれない。レリーフにもいろんな可能性があるんだねえ。

2011/10/14(金)(村田真)

オ・ソックン「教科書(チョルスとヨンヒ)」

会期:2011/09/21~2011/10/22

BASE GALLERY[東京都]

オ・ソックンは1979年、仁川生まれの韓国の写真家。イギリスのノッティンガムで写真を学び、韓国に帰国後本格的に写真家として活動しはじめた。今回BASE GALLERYで展示されたのは、代表作である「教科書(チョルスとヨンヒ)」(2006~08年)のシリーズで、少年と少女の顔をした被りものを身につけたモデルたちにポーズをつけて、さまざまな場所で撮影している。彼らは物置小屋のような場所で密かな性的な遊戯にふけったり、橋の下で身を寄せあったり、自宅の部屋で所在なげにたたずんだりしている。その状況設定に、作者自身の幼年期の記憶が投影されているのはいうまでもない。
実はこのはかなげな少年と少女のキャラクターは、朴正煕政権時代の1970年代から90年代まで、韓国の小学校の教科書のなかに登場していて、この時代に小学生だった韓国人なら誰でも知っているのだという。とすれば、軍事独裁政権から民主化、経済成長を経て、大きく変転していく韓国社会がもたらした歪みや軋みが、彼らのややエキセントリックなふるまいによって象徴的に表現されているともいえる。つまり、あえて頭部を大きくして子どもらしいプロポーションを強調した彼らの姿は、個人的な記憶と歴史との間に宙吊りにされているわけだ。とはいえこのシリーズは、韓国人だけではなく、かつて少年や少女だったすべての大人たちにとって痛みをともなう懐かしさを喚起することができるように仕組まれている。それはオ・ソックンの巧みな演出力の為せる業であり、日本人の多くも、彼らの姿を自分の記憶と重ねあわせることができるのではないだろうか。

2011/10/14(金)(飯沢耕太郎)

2011年11月15日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ