2021年12月01日号
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artscapeレビュー

2012年07月15日号のレビュー/プレビュー

室井公美子「Opposite bank」

会期:2012/05/26~2012/06/23

ギャラリーモモ両国[東京都]

今日は立て続けに2本、いかにもペインティングらしいペインティングを見た。まずは室井公美子。室井の絵画を特徴づけるのは紫がかったグレーの色彩と、絵具が画面を流動するような筆触だが、それ以外の要素、たとえば形態や構築性や地と図の関係などは、今回の約30点の新作のなかでも、また過去の作品のファイルを見ても、あったりなかったり、または行ったり来たりして安定しない印象だ。会場でもらったペーパーには「“狭間”に私は惹かれる」とか「画面とコンタクトを取るように流動的に進めてゆく」とか「矛盾を抱え謎を孕んだものを作りたい」といったことが書かれているが、おそらく作者は最終地点を設定せずに、さまざまな“狭間”を行き来しつつ矛盾を抱え込んだまま、いつのまにか着地しているのかもしれない。それでも、だれが見ても室井の絵だとわかるところが室井の室井たるゆえんだ。

2012/06/14(木)(村田真)

絵画、それを愛と呼ぶことにしようvol.2 俵萌子

会期:2012/05/26~2012/06/23

gallery αM[東京都]

両国から歩いて東日本橋へ。東近の主任研究員である保坂健二朗がキュレーターを務める「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう」という赤面しちゃいそうなシリーズの第2弾は、関西を拠点にする俵萌子。パッと見、思い切りのいい絵具の運びは室井と共通するが、画面も制作方法も俵のほうが求心的だ。色彩的には褐色と白が中心だが、画面には(とくに大作は)必ずといっていいほど中心があって、白(または赤)の絵具がこんもりと盛り上がり、構図的にはだいたい右肩上がりの斜め方向に傾いている。この特徴は、画面に置いた絵具とのやりとりのなかから自己の内面性を引き出していくという彼女の制作方法に由来するのだろう。最初は偶然性や衝動に身をゆだねているようにも見えるが、描き進めるうちに次第に曖昧さが確信に変わっていくように思える。そうするとなぜか右肩上がりになる(右手で描くから?)。いずれにせよ、着地点は室井よりもはっきり見えているような気がする。

2012/06/14(木)(村田真)

ナカフラ演劇展

会期:2012/06/07~2012/06/20

こまばアゴラ劇場[東京都]

久しぶりに訪れた駒場にて、ナカフラ演劇展のCプログラムを鑑賞した。3つの短編を上演したが、最後のおまけ「マクベスのあらすじ」が特に印象的だった。10分で本当に物語の粗筋を生身の俳優が演じる。だが、文字で読む粗筋と似ているようでまるで違う。文字は不要な情報を削ぎ落し、内容を抽象化しているが、生身の人間は表情、衣装、音声、動作など、それ以外の多くの情報を必然的に抱え、それを聴衆に伝達してしまうからだ。ゆえに、粗筋による物語の裁断は暴力的なインパクトを感じさせる。むろん、基本的に演劇はリアルタイムだけではなく、場面が変わるごとに時間が飛ぶものだが、さらに時間を編集した粗筋で感じる奇妙さと、どこが境界線になるのかを考えさせられた。

2012/06/14(木)(五十嵐太郎)

ジョージェ・オズボルト「Same, same but different」

会期:2012/05/25~2012/06/23

TARO NASU[東京都]

ふたりの日本人女性によるストイックなペインティングを見たあとで、こいつのひょうきんな絵を見ると、ああなんて絵画は広くて深くて自由なんだろうとうれしくなる。

2012/06/14(火)(村田真)

アラブ・エクスプレス展:アラブ美術の今を知る

会期:2012/06/16~2012/10/28

森美術館[東京都]

大ざっぱな印象を述べれば、以前こちらでやったインド現代美術展「チャロー!インディア」や、アフリカ現代美術展「アフリカ・リミックス」とかなり近い。なにが近いかというと、おそらく欧米を核とするアートワールドとの距離感だ。欧米との距離が近いのではなく、欧米との距離感がインドからもアフリカからもアラブからもほぼ等しく遠いということだ。地理的に見てもアラブはインドとアフリカのあいだに位置するので、当然といえば当然だが、しかしこれら3地域は地続きでありながら、気候風土も民族も宗教・文化も政治体制もすべて異なっている(一部重なっているけど)。にもかかわらずほぼ等距離に感じたのは、これらの3展が似たような視点や価値観で構成されているからだろう。つまり、欧米の現代美術の流儀にのっとったうえでインドやアフリカやアラブの社会・文化を反映した作品が選ばれている、ということだ。たとえば、サウジアラビアのアハマド・マーテルの《マグネティズム》。黒く四角い立体のまわりに小さなものが渦巻いている写真で、磁石に引き寄せられた鉄粉を撮ったものだが、イスラム世界を少し知っている者は、カアバ神殿の周囲に群がる巡礼者たちを思い起こすに違いない。このようなダブルミーニングは比較的わかりやすいため多くの作品に見られる。いずれにせよこれらは「いかにもアラブな現代美術」であり、アラブの現在の一端を知るにも、また現代美術の一端を知るにも好都合かもしれない。その意味では不特定多数の観客が入場する森美術館らしいセレクションといえる。個人的に好きなのは、パレスチナのハリール・ラバーハによる、絵画が写っている展覧会の写真をスーパーリアリズムで描いた作品。彼はこの作品が展示された風景をもういちど描いてるらしい。絵を撮った写真を描いた絵を描いてるってわけ。

2012/06/15(金)(村田真)

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2012年07月15日号の
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