artscapeレビュー

2012年07月15日号のレビュー/プレビュー

「悪夢のどりかむ:アニメ・エクスプレッショニスト・ペインティング」展

会期:2012/05/26~2012/06/21

Kaikai Kiki Gallery[東京都]

カイカイキキ主宰者の村上隆みずからがキュレーターを務める渾身の企画展、いろんな意味でとても刺激的だった。これは村上の長年の課題である「おたくと現代美術をどのように融合させ、西欧式現代美術の世界へ軟着陸させ、普遍性を持たせるか」へのひとつの解答と見ることができる。つまり、アニメやマンガなどのオタク文化と、美術の王道であるペインティングを接合すること。いいかえれば、日本的コンテンツを西洋的形式に着地させること。10年前だったら荒唐無稽と一笑に付されていたであろうこんな課題も、いまなら少しは現実味を帯びて迫ってくる(それも村上の孤軍奮闘によるものだ)。出品作家は6人で、まさに「アニメ・ペインティング」と呼ぶしかない作品が開陳されている。でも成功しているかというとそうでもなくて、たとえばMr.はコンテンツ(オタク的図像)に重心が傾いて絵画的にはどうかと思うし、JNTHEDはただ図像を巨大化しただけでサイズの意識が希薄だ。オタク的にも絵画的にも成功しているのは、いやそうではなく、内容と形式がうまくかみ合っているのは、最年少のおぐちだ。色彩こそ抑制されているものの、そのペインタリーな線描や正確無比の形態把握は、水と油のようなふたつの世界を見事に架橋しているように見えた。しかしこんなのが世界のアートマーケットを席巻する日が来るのかなあ。

2012/06/19(火)(村田真)

APARTMENT/もえあがる緑の木 安達裕美佳×湯浅加奈子

会期:A: 2012/06/12、も...: 2012/06/19~A: 2012/06/17、も...: 2012/06/24

UTRECHT[東京都]

開店時間とほぼ同時に入店。美術書をはじめ衣服や雑貨などをあつかうお店のようだが、ずいぶん人がいる。このお店はそんなに人気があるのかと思ったら、どうやら大半はスタッフか関係者らしい。そんなことより、肝腎のギャラリーがない。スタッフに聞くと、テラスにある小屋がそれだという。なるほどテラスには粗末な公衆便所みたいな掘建て小屋が建っていた。なかに入るとなにもない。と思ったら、細工した銀紙やメモ書きみたいな絵が貼ってあったり、糸で紙を吊るしていたり……ひとことでいえば、ショボ! この掘建て小屋を含めた全体をインスタレーションとしてつくったならホメてやりたいが、そうでもなさそうだ。まあショボイ小屋に合わせてつくったんだろうけど、ショボすぎるぞ。

2012/06/21(木)(村田真)

澄毅「空に泳ぐ」

会期:2012/06/18~2012/06/23

Port Gallery T[大阪府]

大阪市西区京町堀のPort Gallery Tでは、2012年5月~6月に若手写真家5人の連続展が開催された、やまもとひさよ、田村智子、宇山聡範、小川美緒と続いた最後に登場したのが、澄毅(すみ・たけし)である。
澄は1981年、京都生まれ。2008年に写真ひとつぼ展で入選、2009年と2010年には写真新世紀展で佳作に入っている。昨年同じギャラリーで開催された個展「光」を見て、ユニークな思考力を備えた写真家だと思った。今回の展示は、その続編というべきもので、虫ピンで小さい穴を穿ったプリントを太陽にかざし、そのままカメラで複写するという手法でつくられた作品が並んでいる。一見フォトショップで加工したようだが、その無数の穴を通ってきた光は、光としてのかなり生々しい物質性を感じさせる。写真の画像の中に異なった次元が導入されることで生じた「空白」を、写真を見る者は自らの記憶や願望で埋めようとする。虫ピンで穴を穿つ澄の行為と見る者の思いとが、光の「空白」を通じて交流することがもくろまれているのだ。
昨年の個展では、祖父母や自分自身が写っている家族写真が中心だったが、今回は東京で撮影した路上のスナップのプリントにも穴をあけている。そのことによって、光が侵入する範囲が、個人的な記憶から集合的な都市の記憶まで拡大してきた。彼の意図がより的確に表現されるようになってきたのではないだろうか。ただ「見せ方」のレベルでいうと、最終的なかたちがまだ完全に定まっているとは言えない。プリントを太陽にかざすという行為の痕跡が、もっとストレートに見えていいと思うし、展示作品の大きさ、プリントのクオリティも、まだこれでいいのかという疑問を感じる。フィニッシュワークに、さらに磨きをかけていく必要があるだろう。

2012/06/22(金)(飯沢耕太郎)

伊丹潤 展 手の痕跡

会期:2012/04/17~2012/06/23

TOTOギャラリー・間[東京都]

ギャラリー・間の伊丹潤展を訪れた。独特なデザインだが、かといって完全に孤高ではなく、やはり時代性も感じられるのが興味深い。済州島の作品群を見たくなったが、最近の韓国では国内観光をテコ入れし、飛行機はいつも満員だという。「手の痕跡」という展覧会のタイトルどおり、ドローイングやスケッチが力強い。素材を活かした存在感のある建築だ。が、一部をのぞき、展示された模型は「手」との関連性が見出しにくい。情報として建築を伝えるにしても、図面以上のものがあまり伝達されている感じがしない。これは白井晟一展でも感じたことだが、模型だと相性がよくない建築があるのだろう。

2012/06/22(金)(五十嵐太郎)

大イタリア展──Viva Italia!

会期:2012/05/19~2012/06/23

studioJ[大阪府]

「イタリア」をテーマに作家それぞれが自由にイメージ、表現した作品が展示されていた。参加作家は荒木由香里、池田慎、碓井ゆい、加賀城建、河地貢士、木内貴志、坂本真澄、密照京華、DOGU ARIN、Jhoan Peter Holという10名。平面、立体と表現手法もさまざまなのだが、ここで初めて知った作家や、ドローイングは初の試みだという作家の作品など、私自身が初めて出会うものが多い会場だった。テレビのクイズ番組がすぐさま頭に浮かぶ、イタリアの国旗の3色を用いた木内貴志の《Attack! Twenty-five》、お菓子の包装紙でつくられた碓井ゆいの小さなレインコート、おぼろげな色彩が美しい加賀城建の染色、イタリア社会を風刺するユーモアも効いたJhoan Peter Holの作品など、全体に遊び心を散りばめた内容が愉快。コンセプトやメッセージ性が強い展覧会もいいけれど、こんな賑やかなグループ展はやはり楽しい。



展示風景

2012/06/23(土)(酒井千穂)

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