2021年03月01日号
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artscapeレビュー

2012年12月01日号のレビュー/プレビュー

山口晃 襖絵奉納記念「重要文化財養林庵書院」特別公開

会期:2012/11/03~2012/12/02

平等院養林庵書院[京都府]

山口晃が京都・宇治の平等院養林庵書院(重要文化財)に14面の襖絵を奉納し、特別公開が行なわれている。養林庵書院は桃山城の遺構とも伝えられる建物で、狩野派の障壁画があるが平常は非公開である。彼の襖絵は、書院に通じる六畳+板間の部屋に設置されている。絵の内容は、楼閣風の蒸気機関車に乗った人々(死者の魂)が入京し、京都駅から極楽浄土へ向かって旅立とうとする群像&情景図だ。来迎図と洛中洛外図の形式を借りており、過去と現代と未来が融合した山口らしい作品である。また、隣室に通じる4面の襖は「南無阿弥陀仏」の六文字を書き連ねて藤棚に見立てたもので(平等院は藤の名所でもある)、襖をわずかに開くと一条の光(太陽光)が室内に差し込む。これは仏教の教えにある二河白道の見立てである。山口は今後、隣室にも12面の襖絵を奉納する予定。数年後の完成が今から楽しみだ。

2012/11/03(土)(小吹隆文)

TAT Performing Arts Vol. 1(Abe "M"ARIAほか)

会期:2012/11/04

TRANS ARTS TOKYO(旧東京電機大学11号館)[東京都]

神田の街に「神田コミュニティアートセンター」をつくるためのプロローグとして開催されたTRANS ARTS TOKYO。このアートイベントの一環で「吾妻橋ダンスクロッシング」やSNACでおなじみの桜井圭介がキュレーションしたのがこの「TAT Performing Arts Vol. 1」。11月25日にはVol. 2も行なわれた(筆者は未見)。本イベントでは三組(Abe "M"ARIA、core of bells、危口統之[悪魔のしるし])が出演したが、冒頭に出演したソロダンサーのAbe "M"ARIAによるパフォーマンスが強烈だった。彼女は、いわゆるコンテンポラリー・ダンスの枠で括られることの多いダンサーで、10年以上単独公演や路上パフォーマンスを行なってきた。パンキッシュな下着姿で猛烈に速く腕や脚や胴体をやや痙攣気味に動かすさまは、10年以上前に筆者が初見したときから一貫している。その速さや強さ、また古い大学校舎の扉を蹴飛ばしては舞台となる教室を出たり入ったりするその暴力的な雰囲気もさることながら、際立っていたのは、観光地の猿の如く観客の頭を突っついたりするといういわゆる観客へのいじりだ。ラストシーンでは、観客のめがねを次々と奪っては戦利品を鑑賞するように床に並べたり、身につけてみたりし、観客の爆笑を得ていた。得体の知れない怪物のような存在が観客をいじる。その傍若無人な様子が痛快といえば痛快。彼女の前では黙ってなされるがまま、観客は石となる。ただし、解散が予定されているバナナ学園純情乙女組が観客にわかめや豆腐や水を投げかけ、舞台と観客をスープのように混沌化してしまうパフォーマンスを知っているいまとなっては、そのコンタクトは舞台/客席間を侵犯する激しさよりも、〈無鉄砲な女の子の暴走〉という日本のコンテンポラリー・ダンスらしいイメージの枠内に収まってしまっていると感じないわけにはいかない。そもそも、コンタクトを通してなにをしたかったのだろう。暴走する異物として観客とのディスコミュニケーション状態を出現させたかったのか、しかし、その結果は、そのパフォーマンスが観客に対して他者への気づきを喚起するというよりも、〈ちょっと困ったコがいる(不思議ちゃん?)〉として括られてしまうだけのような気がしてしまった。ぼくもいじられた1人だった。一番派手にいじられた。ただいじられるのがいやでわざとこっちから体をくっつけてみたり、声をかけてみたりとこっちもいじろうとしたからだ。けれども、どうあがいても、彼女のパフォーマンスのための客体にしかなれないと思わされ、寂しい気持ちになった。

2012/11/04(日)(木村覚)

町谷武士 展 遠くて長いピクニック

会期:2012/11/05~2012/11/24

福住画廊[大阪府]

メキシコのカチーナ人形にも通じる、愛嬌のある木彫作品を制作していた町谷が、新作個展で新たな方向性を見せた。それは木板を利用した平面的な表現で、舞台の書き割りにも似た形状の作品である。町谷はもともと平面作家だったから、この新たな方向性には先祖返り的な意味合いがあるのかもしれない。ともあれ、彼の木彫が新たなスタイルを獲得したのは間違いない。今後の展開が非常に楽しみだ。

2012/11/05(月)(小吹隆文)

D&AD賞2012展

会期:2012/10/18~2012/11/18

アド・ミュージアム東京[東京都]

1962年に創設され、今年50周年を迎えたイギリスのデザイナー、クリエーターの団体D&ADが主催する国際的なクリエイティブ賞であるD&AD賞の日本での展示会。日本からは、本田技研工業の交通情報サービス「インターナビ」による東日本大震災での「通行実績情報マップ」と、同じくインターナビを利用した双方向コミュニケーションをビジュアライズするプロジェクト「dots」、NHK教育テレビ「2355」、大黒大悟氏の作品「人体百図」がイエロー・ペンシルを受賞している。最高賞であるブラック・ペンシルは、コロンビア防衛省がゲリラに投降をうながすために行なったプロジェクト「Rivers of Light」。クリスマスの時期、LEDライトが入った透明なカプセルに、ゲリラの家族からの手紙、クリスマス・メッセージなどを封入し、ゲリラ基地近くの川に浮かべる。集まったメッセージの数は6,823通にのぼり、メッセージを手にした多くのゲリラが基地を離れて家族と再会したという。「『ターゲットに望ましい行動を起こさせる』というダイレクトメール本来の目的を見事に達成しており、これほど優れたDMは目にしたことがないと称賛した」との審査員評であった。「メッセージを届けること」が評価されたとはいえ、軍事作戦の一環であるプロジェクトに権威あるデザイン賞がコミットしているという点がとても興味深い。[新川徳彦]

D&AD 2012 - Gold pencil Direct - Ministry of Defence "Rivers of light"

2012/11/07(水)(SYNK)

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スイス・デザイン賞 展

会期:2012/11/06~2012/11/18

スパイラルガーデン[東京都]

「スイス・デザイン賞」は、1991年に創設され、隔年で開催されているスイス現代デザインのコンペティション。日本での海外巡回展は2010年に次いで2回目で、今回は2011年度の受賞作が紹介された。LED電球の新しい形、テキスタイルデザイン、組み立て式の椅子、ダイビング器材や自転車などのスポーツ用品、調理器具、トラック幌をリサイクルしたメッセンジャー・バッグで知られているフライターグの展示用什器や製品プロジェクトなどを見ることができた。実体のあるプロダクトが展示の中心となるなかで、マーケット部門賞を受賞したNPO団体のプロジェクト《シニア・デザイン・ファクトリー》がとても興味深い。活動の趣旨は、高齢者と若者とのあいだのジェネレーションギャップをデザインという行為を通じて埋めていこうというもの。高齢者との関わりというと、ボランティア的な活動をイメージしてしまうが、《シニア・デザイン・ファクトリー》はワークショップを通じて相互にものづくりを学び、その結果を正当な対価を得られる製品へと仕上げる。たとえば高齢者が料理のレシピや手描きのイラストをつくり、編み物の技術を教える。若者は高齢者にコンピュータの使いかたを教えたり、新しいデザインによって、彼らの技術から売れるプロダクトをつくる。当初オンラインで販売されていた製品は、その後開設されたショップでも販売されるようになり、2011年10月にはカフェもオープン。今後彼らはこのプロジェクトをヨーロッパ各国でフランチャイズ展開することも考えているという★1。ただ古い技術にデザインを持ち込むだけではないく、つくり手のしあわせと製品の使い手との関係、製品の販路までをも視野に入れたこの優れたプロジェクトは、世代間をつなぐばかりではなく、地場産業とデザイン、伝統工芸とデザインとの関係にも示唆を与えるものではないだろうか。[新川徳彦]
★1──「高齢者と若者が集う場、チューリッヒに生まれたシニアデザインファクトリー」(『AXIS』Vol. 157、2012年5月、74~77頁)。

2012/11/07(水)(SYNK)

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