2021年03月01日号
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artscapeレビュー

2012年12月01日号のレビュー/プレビュー

シャルダン展──静寂の巨匠

会期:2012/09/08~2013/01/06

三菱一号館美術館[東京都]

18世紀フランスの静物・風俗画家ジャン・シメオン・シャルダン(Jean Siméon Chardin, 1699-1779)の、日本初の個展である。展示は初期の静物画、中期の風俗画、その後の静物画への回帰と、年代を追う構成。作品の大部分が日本初公開である。静物画には、銀のゴブレットや中国磁器が描かれることもあるが、狩りの獲物である野ウサギ、銅の鍋や陶器の器、肉や卵、野菜などのように、ほとんどが非常に素朴で身近なモチーフばかりである。風俗画であっても描かれた女中や看護人の姿には、派手さは感じられない。画面に動きはなく、音のない空間が広がる。「静寂の巨匠」たる所以である。
 図録では、シャルダンの生涯、同時代における評価や、忘却の時代、そして19世紀後期の再評価まで、美術史におけるシャルダンの位置づけが詳細に論じられている。そのなかでも三菱一号館美術館の安井裕雄主任学芸員による論考「日本におけるシャルダン受容史」が興味深い★1。明治期に渡仏した画家たちの足跡を追うことからはじまり、美術雑誌、評論などの文献を渉猟し、来日展にまで及ぶ丹念な調査は、さしあたりは事実確認が中心であるが、シャルダンを切り口とした日本における西洋美術受容史の可能も示している。
 安井氏の論文には、画家シャルダンとエステー化学(現エステー)の芳香剤エアーシャルダンとの関係についても触れられている。1971年に発売された室内用芳香剤「エアーシャルダン」(商品の英文綴りはShaldan)を名付けたのは、当時エステー化学専務でのちに社長、会長を務めた鈴木明雄氏であった。鈴木氏は1953年、ソ連への親善視察団に参加した折りにエルミタージュ美術館を訪れ、そこで目にした数々の美術作品に衝撃を受けて絵を習いはじめ、以来経営の傍ら絵を描き続けてきた画家でもある。鈴木氏が心ひかれた画家のひとりがシャルダンであった。鈴木氏はシャルダンがありふれた日常生活における静物や人物をモチーフとして描いたことに着目し、当時はまだ一般的な存在ではなかった室内用芳香剤をどのような場所にでも普及させたいと、画家の名前を商品につけたのである★2。鈴木氏は、商品のネーミングに込めたこのような想いを新聞や業界紙でたびたび語っている。しかしそれだけではなく、忘却の時代を超えて19世紀後期の画家たちに影響を与えた先駆者としてのシャルダンを、新しい商品に重ねていた可能性も考えられるのではないだろうか。
 展覧会の広報デザインは、ライトパブリシティの細谷巖氏。コピーは同じく山根哲也氏。「やさしい沈黙に、つつまれる。」という言葉も、余白のあるデザインも、私たちをシャルダンの静寂なる世界へといざなう。[新川徳彦]
★1──展覧会図録、35~53頁。
★2──鈴木明雄「シャルダンのこと」(『東京石鹸商報』、1991年1月1日)、「“色香”に迷う──かぎ分けた時代の要請。エステー化学社長鈴木明雄氏(上)」(『日経流通新聞』、1998年3月3日)。

2012/11/23(金)(SYNK)

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鬼海弘雄 写真展 PERSONA

会期:2012/11/10~2012/12/24

伊丹市立美術館[兵庫県]

40年以上にわたり、強烈な存在感を放つ人々を真正面から捉えた《PERSONA》などの作品で知られる写真家・鬼海弘雄。彼の関西初の大規模個展となる本展では、《PERSONA》のほか、《東京迷路》《東京夢譚》《インディア》《アナトリア》から、厳選された約200点が出品された。展覧会の中心をなし、最も存在感を放っていたのは、やはり《PERSONA》の作品群。同一の構図&撮影場所という条件を設定することで、人物の個性が一層際立っていたからだ。よくもこれだけ濃い人を集められたものだ。鬼海の粘り強さとコンセプトへの執着には感心の二文字しかない。10数年の時を経て同じ人物の経年変化が見られたり、何度も写りに来るお馴染みのおばちゃんがいるのも、写真家と被写体の関係性を考えるうえで興味深かった。

2012/11/24(月)(小吹隆文)

「国立デザイン美術館をつくろう!」第1回パブリック・シンポジウム

会期:2012/11/27

東京ミッドタウンホール HALL A[東京都]

三宅一生氏(デザイナー)と青柳正規氏(国立西洋美術館館長)を呼びかけ人として、2012年9月に「国立デザイン美術館をつくる会」が設立された。10月末にはウェブサイトが開設され、設立趣意の公表とシンポジウムの開催を告知。定員650名があっというまに埋まったことで、この動きが多くの人々の関心を集めていることがわかる。当日はUstreamの中継を視聴した人も多かったようだ。
 11月27日に開催されたシンポジウムの登壇者は、佐藤卓(グラフィック・デザイナー)、深澤直人(プロダクト・デザイナー)、工藤和美(建築家)、皆川明(ファッション・デザイナー)、田川欣哉(デザイン・エンジニア)、鈴木康広(アーティスト)、関口光太郎(アーティスト)の各氏。その肩書きからは、ここでいう「デザイン」が非常に広い領域を包摂しようとしていることがうかがわれる。2時間半に及んだシンポジウムには、「だから今、デザインミュージアムが必要だ!」「みんなに愛されるデザイン・ミュージアムとは?」「デザイン・ミュージアムとアーカイブ」という3つのテーマが設定されていたが、実際の進行はゆるやかなブレイン・ストーミングの趣きであった。「経済以外に生活の質を計るための基準をつくる」(深澤氏)、「デザインとは何かという気づき、体験の場」(佐藤氏)、「デザイナーたちが自分たちの足跡を残し、未来をつくる場」(三宅氏)、「デザイン・ミュージアムにとってモノは生活の質を考えるための入口」(皆川氏)、「モノとのつきあい方をプロデュースする」(鈴木氏)、「モノとモノをつなぐ発想法のワークショップ」(佐藤氏)などのコメントからは、「歴史」「観察」「教育」「機能」「技術」「環境」といったキーワードが浮かび上がってきた。
 「国立」であることの意義としては、継続性という点で登壇者の意見は一致。21_21 DESIGN SIGHTを実現させた三宅一生氏の次の願いは、アーカイブ機能を持った施設をつくること。これまでにも私企業によるデザイン・ミュージアムはあったが、業績の変動によって存続不能になったり資料が散逸する恐れがある。国の施設にすることで、そのようなリスクを排除したいということである。
 「デザイン」の定義については直接の話題にならなかったが、むしろその枠組みを取り払いたいとの意見も見られた。ただし、企画展ではさまざまな試みが可能としても、この構想が「アーカイブ機能」を持つとなると、なにを収集・保存するかが問題となる。デザインとアート、デザインと工芸、デザインとものづくりの関係のとらえ方は、この構想と既存の美術館・博物館との重要な差別化要因になるだろう。
 立地、規模、形態などは現時点では未定。どんなに順調にいっても、実現には最短で5年。今後シンポジウムを重ねると同時に、広くサポーターを集めて「みんなでつくる美術館」を目指しつつ、国会議員連盟を形成して実現への足掛かりとしてゆく(青柳氏)とのことであった。2013年秋には、21_21で主旨を反映した展覧会開催が予定されている。
 日本には包括的にデザインを収集・紹介するミュージアムが存在しないこと、そしてそれが必要とされていることは、デザインに関係する人々には共通の認識で、これまでにも日本デザイン団体協議会(D-8)の「ジャパンデザインミュージアム構想」や、武蔵野美術大学美術館の試みが存在する。しかし、ここまで多様な人々の関心を集めたことはなかったのではないだろうか。これまでに行なわれてきた議論の蓄積や海外での事例を生かし、よりよいミュージアムが実現されることを期待したい。[新川徳彦]

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2012/11/27(火)(SYNK)

村山春菜 展

会期:2012/11/20~2012/12/02

同時代ギャラリー[京都府]

日本画らしからぬ大胆な画風で注目を集めている若手画家が、2年ぶりに個展を開催した。高速道路や高層ビルなどの都市風景を、個性的な線描と鳥瞰の構図で描くのは相変わらず。本展でも2.3×6メートルの大作《お・で・か・け─ちょっと圏外まで─》を筆頭に、10数点が出品された。彼女はスケッチを重視しており、独特の個性的な線は、スケッチを本画のサイズに拡大コピーし、カーボン紙でトレースして描かれている。そんなライブ感を重視する画風が、彼女の個性を一層際立たせているのかもしれない。とにかく、絵に淀みがないのがこの人の魅力だ。今のフレッシュな感覚を保ちながら、さらに画風を発展させてほしい。

2012/11/27(火)(小吹隆文)

佐藤オオキ『ネンドノカンド──脱力デザイン論』

刊行日:2012年9月28日
発行:小学館
判型:A5判変形
頁数:226頁
価格:2,310円(税込)

今世界でもっとも注目される若手デザイナー佐藤オオキの初の単著。雑誌『DIME』で連載していた「ネンドノカンド──脱力デザイン論」を書籍化したものだ。本屋の本棚にお風呂で本を読む男性のイラストと、「こんな感じで読めるデザイン論」との宣伝文句が掲げられていたが、、まさにそのとおりで、著者が手がけたプロダクトのデザインコンセプトやアイデア発想法などをわかりやすく解説している。語りかけるような文章と著者によるイラスト、作品写真も楽しめる一冊。1977年にカナダで生まれ早稲田大学で建築を学んだ佐藤は、学生時代の仲間たちとデザインオフィスnendoを発足、現在まで代表を務めている。nendoは「ELLE DECOR International Design Award 2012」のDesigner of the Yearを受賞するなど、国内のみならず世界中が注目している。奇抜だけど気取らない、シンプルだけど遊び心あふれるnendoのデザインから目が離せない。[金相美]

2012/11/30(金)(SYNK)

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