artscapeレビュー
2012年12月01日号のレビュー/プレビュー
The Posters 1983-2012 世界ポスタートリエンナーレトヤマ受賞作品展
会期:2012/11/06~2012/12/21
dddギャラリー[大阪府]
「世界ポスタートリエンナーレトヤマ(IPT)」開催10回目を記念し企画された展覧会。歴代の受賞作品のなかから、重要な作品を厳選し紹介している。1985年から3年毎に開催されるこのイベントは日本で唯一の本格的な国際ポスターコンペティションだという。ポスターが鑑賞の対象になるかどうかはともかく、実大のポスターは迫力満点で、雑誌や新聞、チラシなどの印刷媒体で見るのとは一味も二味も違う。またポスターはよく「時代を映す鏡」にたとえられるが、各時代の関心事や流行がわかるので別の角度からも楽しめる。[金相美]
2012/11/20(火)(SYNK)
プレビュー:山村幸則 神戸における3つの展覧会
会期:2012/12/15~2012/12/25
CAP STUDIO Y3、ギャラリー島田、GALLERY 301[兵庫県]
神戸を拠点に、立体、パフォーマンス、参加型作品、ドローイング、映像など幅広い活動を続けてきた山村幸則。本展では、彼がアトリエを構えるCAP STUDIO Y3の403号室で、「Archives 資料室」と題した一種の回顧展を行なう一方、ギャラリー島田とギャラリー301の2会場で「神戸牛とWalk」と題した新展開を発表。さらには作品集『from hand to hand』を発行するなど、これまで以上に旺盛な活動を展開する。彼にとってマイルストーン的な意味を持つ機会となることは間違いないだろう。
2012/11/20(火)(小吹隆文)
プレビュー:フィンランドのくらしとデザイン ムーミンが住む森の生活
会期:2013/01/10~2013/03/10
兵庫県立美術館[兵庫県]
1950年代以降、国際的に高い評価を受けているフィンランドのデザインを紹介する展覧会。トーヴェ・ヤンソンが創造し、フィンランドの風土やライフスタイルを学ぶよきバイブルと言われる「ムーミン」をガイド役に、19世紀末から20世紀前半の民族主義、『ムーミン』の原画、アルヴァ・アアルトやカイ・フランクの製品デザイン、マリメッコのテキスタイル、現在の公共デザインなど約350点を紹介する。「人間と自然の共存」や「家庭や地域コミュニティの相互扶助」を基本とし、現在のユニバーサル・デザインやエコ・デザインにも大きな影響を与えているフィンランド発のデザインの魅力を知る絶好の機会だ。
2012/11/20(火)(小吹隆文)
絵はがきの別府展
会期:2012/11/13~2012/11/27
P3/BEP.lab(旧草本商店2階)[大分県]
大分県の別府市で行なわれている国際展「混浴温泉世界」は、じつは「別府アートマンス」というより大きな枠組みのなかに位置づけられている。これは市民による総合芸術祭で、現代アートのみならず、工芸、陶芸、書、ダンス、音楽など、さまざまな芸術ジャンルのイベントが、「混浴温泉世界」の会期に合わせて連続的かつ同時多発的に催されるのだ。
「混浴温泉世界」の作品を探して街をうろうろ歩いていると、いたるところで不意に小さな展覧会に出くわすほど、おびただしい。小規模な文化事業とはいえ、これだけ充実させている点は、横浜や妻有、愛知、神戸、瀬戸内などの国際展都市には見られない、別府ならではの大きな特徴である。
この展覧会もそのひとつ。観光都市・別府の絵はがきを、街中の共同浴場の上にある旧公民館で一挙に展示した。絵はがきに用いられた写真には、巨大な旅客船や砂風呂、外国人など、いずれも往時を偲ばせる図像が小さなフレームの中に収められている。なかでも港に停泊した巨大な旅客船の真下で砂風呂を楽しむ観光客を写した写真は、一瞬合成かと疑ってしまったほど、別府のセールスポイントを凝縮して構成されていて、その気迫と工夫がおもしろい。
別府の栄華を物語る絵はがきの数々を、その勢いを失ってしまった空間で見るという経験。その時間と空間の圧倒的なギャップに目眩がするが、「混浴温泉世界」とは異なるさまざまな水準が設けられ、いろいろな角度から別府に想像力を働かせることができるようになっているところに、アートの大きな意味を見た。
2012/11/20(火)(福住廉)
魅惑の日本の客船ポスター
会期:2012/10/06~2012/11/25
横浜みなと博物館[神奈川県]
明治時代後期から現代まで、海運会社が集客・集荷のための宣伝のためにつくってきたポスターの変遷をたどる展覧会。300点近いポスターを、時代、社会環境、船の役割の変遷を中心に6つのパートに分けて紹介している。第1は「引札・汽船号からポスターへ」。明治時代には商店・商品の宣伝に用いられた引札と同じ手法を海運業者が利用していたが、遠洋航路の発展とともにそれがポスターに代わる。デザインには美人画が多く用いられていたのは、同時期の百貨店やお酒のポスターに類似する広告の手法である。第2は「美人画ポスターから船のポスターへ」。第一次世界大戦による船舶需要の拡大は日本の海運会社に繁栄をもたらし、大阪商船などは勢力を誇示するような迫力のあるポスターをつくる。また、美人画に代わって船そのものがデザインの主題になっていった。第3は「客船就航告知と船の旅」。戦間期には船の画像にとどまらず、観光地や旅の楽しみをイメージしたポスターなどがつくられて、人々を船の旅に誘った。里見宗次によるポスター(日本郵船、1936)や、ゲオルギー・ヘミング(ピアニストのフジコ・ヘミングの父)のポスター(日本郵船、1932)などには、フランスのポスター画家カッサンドルの影響も見て取れる。第4は「華やかなポスターと戦争」。台湾や満州などへの航路が充実し、新造船の就航がアナウンスされる。デザインには画家やデザイナーも活躍。3つの新造船を三人姉妹に例えた小磯良平のポスター(日本郵船、1940年)もすばらしい。しかし、1942年以降客船は接収され、軍艦や輸送船となって戦闘に参加。大半が失われてしまった。第5は「減少する客船ポスター」。敗戦によって客船が失なわれたが、南米移民の増加は新たな天地での生活をイメージしたポスターをもたらした。しかし、移動の主役が航空機に代わるとともに、客船ポスターも減少する。第6は「ポスターはクルーズへ誘う」。移動のための手段から、レジャーを楽しむクルーズ船の時代になった現在、ポスターのデザインも青い海に浮かぶ白く豪華なホテルというイメージが多用されていることが示される。たんに懐古趣味のポスター展覧会ではない。日本の海運業発展の歴史ばかりではなく、印刷史、広告史、同時代の社会状況までをも視野に入れた、充実したポスター史の展覧会であった。[新川徳彦]
2012/11/21(水)(SYNK)