2021年03月01日号
次回3月15日更新予定

artscapeレビュー

2012年12月01日号のレビュー/プレビュー

プレビュー:馬込時代の川瀬巴水──馬込生活は一番面白い時代でもあった

会期:2012/12/01~2012/12/24

大田区立郷土博物館[東京都]

新版画の画家・川瀬巴水(1883-1957)は、大正15(1926)年に現在の東京都大田区に転居して以来、戦時中に塩原に疎開した以外は、昭和32(1957)年に亡くなるまで区内で過ごした。39年にわたる制作期間のうち31年間を大田区で暮らしたことになる。そのなかでも、昭和5(1930)年から19(1944)年まで馬込で生活した時代を巴水はそのころを「一番面白い時代であった」と述懐していたという。この展覧会では、《馬込の月》《森ヶ崎の夕陽》《池上本門寺》や、《東京二十景》《新東京百景》シリーズなど、馬込時代に大田区や東京の風景を主題として制作した版画作品を中心に、試刷、版木など、大田区立郷土博物館が所蔵する作品から約100点が展示される。没後50年(2007年)前後に開催された大田区立郷土博物館や江戸東京博物館の展覧会をきっかけに、近年ふたたび巴水作品への評価が高まっている。2013年には生誕130年を記念する展覧会が千葉市美術館(2013年11月26日~2014年1月19日[予定])などで企画されているとのことなので、予習を兼ねて馬込の地を訪れてはいかがだろうか。[新川徳彦]


左=川瀬巴水《池上本門寺》(昭和6年)
右=川瀬巴水《森ヶ崎乃夕陽》(昭和7年)
ともに提供=大田区立郷土博物館

2012/11/30(金)(SYNK)

笠井叡×麿赤兒『ハヤサスラヒメ 速佐須良姫』

会期:2012/11/29~2012/12/02

世田谷パブリックシアター[東京都]

ダンサーとは錬金術師ではないか。あるいは、七五三の子どもをカメラに向かせようと「鳩が出ますよ!」と口にするカメラマンではないか。笠井叡と麿赤兒。ともに1943年生まれ。舞踏の黎明期から活動してきた2人が、真っ向からぶつかり合った宣伝に偽りない「事件」的上演は、ダンスという表現が独自に有している「嘘の真実性」とでもいうべき不思議な質を大いに湛えていた。ベートーヴェンの「第九」が、第1楽章から律儀に最終楽章まで大音量で流れ続けるなか、笠井が率いる天使館の若者たち4人の肌色の肉体と麿が率いる大駱駝艦の若者4人の白塗りの肉体とが、ときにバトルするように、ときに協働しながら、舞台を縁取ってゆく。そのなかを、笠井はラメの入ったズボンを履いて、まるでミック・ジャガーのようなアグレッシヴでときにコミカルなダンスを繰り出し、対して麿は巨大なカツラにロングドレス姿でのっそりとまたときどきなにかに翻弄されているかのような仕草をして徘徊する。彼らの動作は、バレエやモダンダンスといったオーセンティックなダンスとはほど遠い。そうしたダンスならば約束される美しさや様式性を見せることはない。あるいは、若いダンサーたちが体現する高い身体能力も彼らの身体とは縁遠い。ゆえに、2人の動作は「とんでもないなにかがここにはある」と約束しながら、その約束を延々と先延ばししているような詐術を感じさせる。いや、これは非難ではない。若い身体が現在の躍動を通して未来へ向かう可能性を示すのとは異なり、不可能性を意識させる初老の身体が語るのは、現世とははかない夢であるという真実である(とはいえ、彼らはまだ初老というのもはばかれる溌剌としたところがあり、もっと老いたほうが若い身体とのコントラストは際立ってくるだろう。大野一雄がそうであったように、10年後の彼らの身体こそ見物であるのかもしれない)。「三途の川をみんなで渡ろう」なんて台詞も笠井の口から漏れたが、2人の大袈裟でルール無用の振る舞いは、生の無意味さを嘆くのでも、意味あるものに無理やり変えようというのでもなく、ただ無意味さの周りで戯れるのだという意気込みばかりですがすがしい。「第九」の最終楽章が舞台を煽りに煽って「偉大ななにか」が立ち現われたかに見えた瞬間、音響のヴォリュームが急に下がり、それまで躍動していた若いダンサーたちがすっといなくなり、2人は舞台に取り残された。夢は消えた。あるいは、生はそもそもはかない夢だった。結局、鳩は出たのか、出なかったのか。定かではないが、「鳩が出るよ」の叫びの持つ人間的な真実に向き合うことができたことは間違いない。


笠井叡×麿赤兒 『ハヤサスラヒメ 速佐須良姫』

2012/11/30(金)(木村覚)

プレビュー:黒沢美香『鳥図』、壺中天『CRAZY CAMEL』、バナナ学園純情乙女組『バナナ学園大大大大大卒業式──サヨナラ♥バナナ』

今月は、上旬に上演される黒沢美香の「薔薇の人」シリーズ第15回公演『鳥図』(2012年12月4日~7日@中野テルプシコール)がまず要注目。黒沢は、日本のコンテンポラリー・ダンスの世界でゴッドマザーと呼ばれもする超重要なダンサー。とはいえ、そんなキャッチフレーズとはおよそ結びつかない、何重にもひねりを加えたような、生半可ではない、不可思議で魅惑的な舞台で毎回観客を翻弄してきた強面の作家でもある。唯一無二の、超絶的世界が展開されること必死。見逃さずに! 中旬からは、おなじみ壺中天公演『CRAZY CAMEL』(2012年12月14日~24日@大駱駝艦・壺中天)の上演が待っている。今回は、舞踏仕立ての金粉ショーと銘打っているだけに、彼らの路上パフォーマンスのあの独特なコミカルでエロい熱気でスタジオが盛り上がることだろう。しかも、本公演は村松卓矢が主演、演出という話を聞いた。ならば、やはり見逃すことはできないはず! さて、年末には、バナナ学園純情乙女組の解散公演『バナナ学園大大大大大卒業式──サヨナラ♥バナナ』(2012年12月28日~31日@王子小劇場)の上演も控えている。彼らが演劇界に残したものとはいったいなんだったのかを確認するためにも、あの異常に覚醒した熱狂をもう一度堪能するためにも、目撃しておきたい一本。

2012/12/03(月)(木村覚)

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