2022年10月01日号
次回10月17日更新予定

artscapeレビュー

2013年06月01日号のレビュー/プレビュー

Crackersboat『flat plat fesdesu Vol. 2』Bプロ、Cプロ

会期:2013/04/23~2013/04/29

こまばアゴラ劇場[東京都]

日本のコンテンポラリーダンスにおける注目の若手作家KENTARO!!を中心としたプロジェクトチームCrackersboat。彼らが行なった、ダンスと音楽の作家たちを集めたイベントがこれだ。遠田誠や岩渕貞太など、名の知られている中堅の振付家・ダンサーも出演していたが、ぼくが見たなかでダントツに面白かったのは、Aokid×たかくらかずきだった。Aokidをはじめてぼくが見たのは、大木裕之が武蔵小金井で行なったイベントのなかでだった。ヒップホップにルーツのありそうなダンスを文系男子の雰囲気のある男の子が一人で、しかもしゃべりながら踊るという、それはそれはとても新鮮なパフォーマンスだった。今回は、たかくらかずきとのコラボレーション。イラストレーターで劇団・範宙遊泳の美術監督も行なっているたかくらは、舞台奥のスクリーンに映る机の上の世界を担当。この箱庭的世界がときに子どもの粘土遊びのようにときにゲームの画面のように変化するのに応じて、目の前のAokidはその世界に巻き込まれ、世界とともに生きようとする。Aokidのよさは、肉体が薄っぺらく思えることだ。彼のアクロバティックな動作は、それができる肉体の力量よりも肉体の軽さ薄さを見るものに感じさせる。そこがいいのだ。そもそも映像が面白く、リアリティを感じさせればそれだけ、目の前の肉体の存在意義が薄くなる、ぼくらはそうした時代に生きている。Aokidがゲームのキャラに見えてしまうとき、そこにむしろぼくらは現在の人間を感じる。今月見た『THE END』がまさにそうであったわけだが、こうした状況で踊る意味をAokidはちゃんと示そうとしている。Aokidのほかには、カラトユカリの演奏がじつにユニークだった。小さなギターをつま弾き、しっとりとした声で歌う、演奏の魅力も際立っていたのだけれど、独特の佇まいになんともいえない面白さがあった。それはなにより、微笑とともに登場し椅子に座ると、ちょこんと花の冠を頭に載せた、その瞬間に濃密だった。声で思いを届けるという、いってみればきわめてプリミティヴな行為を成功裡に遂行するには、どんなにささいなものでもある種の儀式が必要なのかもしれない。花冠は、そんな風なものに思えて、演奏中ずっと花冠とカラトユカリを交互に見続けてしまった。もっといえば、この「どうすれば場が生まれるのか」といった点に敏感になることにこそ、ダンスのなすべき仕事が隠れているのではないか、そんなことをずっと考えていた。

2013/04/27(土)(木村覚)

オオサカがとんがっていた時代─戦後大阪の前衛美術 焼け跡から万博前夜まで─

会期:2013/04/27~2013/07/06

大阪大学総合学術博物館[大阪府]

戦後から1970年大阪万博前夜までの大阪の文化状況を、美術、建築、音楽を中心に振り返る企画展。出品物のうち、資料類は約70件。具体美術協会のものが大半を占めたが、パンリアル美術協会、デモクラート美術家協会、生活美術連盟の資料も少数ながら見ることができた。作品は約40点で、前田藤四郎、池田遊子、早川良雄、瑛久、泉茂、白髪一雄、嶋本昭三、元永定正、村上三郎、田中敦子、ジョルジュ・マチウ、サム・フランシスなどがラインアップされていた。具体美術協会に比して他の団体の割合が少ないのは、現存する資料の豊富さが如実に関係している。このことから、活動記録を残すことの重要性を痛感した。また、本展は大学の博物館で行なわれたが、本来ならこのような企画は地元の美術館がとっくの昔に行なっておくべきものだ。その背景には、美術館の活動が思うに任せない1990年代以降の状況があると思われるが、必要なことが行なわれない現状を嘆かわしく思う。

2013/04/27(土)(小吹隆文)

黒沢美香(振付)、上村なおか+森下真樹(ダンサー)『駈ける女』

会期:2013/04/27~2013/04/29

スパイラルガーデン[東京都]

ゆったりとしたらせん状の階段の中程に座して、階段がぐるりと囲む丸い空間を見下ろしながら、公演中ずっと考えていたのは、黒沢美香のダンスは振付に還元できないなにかなのではないかということだった。上村なおかと森下真樹という10年以上のキャリアを積んできた2人のダンサー・振付家が黒沢美香の振付を踊る。コンテンポラリー・ダンスを10年以上ウォッチしてきた筆者のような者にとって、これは間違いなくワクワクさせる企てだ。事実、長身に見えるスレンダーな2人が薄赤い皮膚のような衣裳を纏って、円形の舞台をぐるぐると駈け回る冒頭あたりまでは、「薔薇の人」(黒沢が長年続けてきた、ときに恐怖を催すほど奇っ怪なダンス公演)シリーズが黒沢ではないダンサーによって上演されているかのような錯覚に陥り、興奮させられた。けれども、かなり早い時点で、あれ?と思い始めた。いかにも黒沢らしい振付が繰り出されてはいるものの、それが黒沢のダンスに見えない。森下のダンスは、中学校の教室にいる面白い女の子のような愛嬌がある。不意に見せる仕草につい笑みがこぼれる。それはいわば、あらかじめとらえておいた観客のなかにある笑いのツボを刺激しようとする「昨日」のダンスだ。不意にそんな言葉が浮かんだ。ならばどうだろう。即興を重視するところのある上村のダンスは、いまを感じながら、いまの身体を反省し進んでいく「今日」のダンスとでもいおうか。さて、そうとらえてみたうえで考えると、黒沢のダンスは「昨日」とも「今日」とも違う。あるいは、理想へと向かって邁進する類の「明日」のダンスでもない。あえていうならば、それは「明後日」のダンスだ。思いがけないところに確信をもって突き進む、乙女チックで不思議ちゃん的な、瑞々しいステップだ。黒沢独特の瑞々しい、なにか「はっ」と気づいたら見ているこっちが気絶させられていたとでもいおうか、そんな異次元トリップの感覚はこの舞台にない。いつも通り森下は「昨日」を、上村は「今日」を踊り続ける。振付は確かに黒沢的テイストが込められているのだが、2人の踊りは黒沢のエッセンスと向き合っているように見えなかった。もちろん、黒沢の物真似をすればいいということではない。とはいえ、「明後日」と「昨日」が、「明後日」と「今日」がどう響き合うのか、そこはこの公演の最大のポイントであろうし、少なくともぼくはそこになにかが凝らされているものと期待したのだ。いや、簡単な話だ。森下と上村が、黒沢のダンスをどう受け取り、どう解釈し、どう愛したあるいは憎んだか、それが知りたかったのだ。そこがぼくにはぼやっとしか見えなかった。


POWER OF ART DANCE SERIES VOL.2 上村なおか 森下真樹「駈ける女」

2013/04/28(日)(木村覚)

歩く男

会期:2013/04/20~2013/05/11

CAS[大阪府]

主題や対象を外側から眺めるのではなく、作者自身が主体的に作品世界に飛び込むアーティストたちをピックアップした展覧会。出品作家は、林勇気、山村幸則、白石晃一の3名。キュレーターは東京造形大学准教授の藤井匡だ。林はテレビゲームを思わせる横方向のスクロールが印象的な映像作品と、2つの映像の組み合わせからなる新作を発表、山村は神戸牛の子牛に海を見せるべく神戸の市街地を山から海、海から山へと歩き回る近作を出品し、白川はレインボーカラーの洗濯バサミや結束バンド、スーパーボールでビル屋上にインスタレーションを構築した。正直、自分が企画意図を正しく理解できているのかは心もとない。しかし、単体でも見応えがある作家たちが3名も集結したのだから、それだけで十分満足だ。

2013/04/28(日)(小吹隆文)

池本喜巳 写真展“素顔の植田正治”

会期:2013/05/02~2013/05/19

Bloom Gallery[大阪府]

鳥取生まれで、砂丘を舞台にした傑作で知られる写真家・植田正治。長年にわたり彼のアシスタントを務めた池本喜巳は、植田の仕事の傍らで植田の素顔や撮影の様子を捉えた写真を数多く残している。本展ではそんな珍しい作品が展示され、池本によるトークも行なわれた。作品のなかには、植田の代表作が別角度から見られるものや、特殊効果の種明かしなど、きわめてレアなものが多い。また、ひとつの展覧会で2人の写真家が交錯するという意味でも大変ユニークな機会だった。

2013/05/02(木)(小吹隆文)

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