2022年08月01日号
次回9月1日更新予定

artscapeレビュー

2013年06月01日号のレビュー/プレビュー

ルパン三世 展

会期:2013/04/27~2013/05/21

松坂屋美術館[愛知県]

アニメーションをめぐる言説でもっとも注意すべき点は、それらがマンガと並ぶ代表的な大衆文化であるがゆえに、誰が語るにしても特定の作品への思い入れが強くなりすぎることである。だからこそアニメーションは、よくも悪くも、世代論と非常に緊密に結びつきやすい。愛のある言説は特定の世代には大きな共感と支持を得やすいが、同時に、異なる世代を不本意にも疎外してしまいかねないというわけだ。
むろん、世代を超越して愛されるアニメーションがないわけではない。《ドラえもん》《サザエさん》《ちびまる子ちゃん》などは視聴者を入れ替えながら長期にわたって連続的に放送されているし、《ルパン三世》も、断続的とはいえ、同じく幅広い世代に愛されているアニメーションのひとつである。
本展は、《ルパン三世》の全貌に迫る好企画。原画やセル画はもちろん、アトランダムにカットアップした映像作品、制作スタッフへのインタビュー、原作者であるモンキー・パンチの原画、そして27年ぶりに放送されたテレビシリーズ《LUPIN the Third─峰不二子という女》の資料などが一挙に展示され、非常に見応えのある展観だった。
例えば歴代のルパンの顔を並べた展示を見ると、「ルパン」という定型的なイメージにさまざまな微細な差異が織り込まれていることがよくわかる。服装はもちろん、目つきや口のかたちからモミアゲの長さにいたるまで、その都度その都度、ルパンは隅々にわたって微調整されているのだ。言い換えれば、そのイメージを生産しているアニメーターたちの個性や表現がそれぞれ確実に作用しているのである。
視覚的なイメージだけではない。ルパンの声優といえば、かつては山田康雄であり、現在は栗田貫一だが、本展で上映されたパイロット版を見ると、当初はまったく別の声優だったことを知って驚いた。その声の質は、60年代のテレビドラマや映画でたびたび耳にする硬質なそれで、現在私たちが知っているあの軽佻浮薄なルパンとは程遠い。さらに銭形警部の納谷悟朗がパイロット版では石川五エ門の声を担当していたように、現在定着しているイメージは、度重なる試行錯誤の結果だった。
その実験的な取り組みをもっとも如実に表わしていたのが、TVシリーズのオープニング映像である。本展では、4つのテレビシリーズのうち、《LUPIN the Third─峰不二子という女》をのぞく3つのオープニング映像が上映されていた。3つの映像を見比べてみると、それぞれアニメーションにおける映像表現の可能性を追究しており興味深いが、なかでも傑出していたのが、第2シリーズ。キャラクターのスピーディーな動きから色の使い方、光と影の陰影表現や焦点の遠近移動といった映画的技法、あるいは光と速度を溶け合わせたり、キャラクターの輪郭のなかに別次元を導入したり、アニメーションならではの技法にも挑戦している。アニメーションのクリエイターたちは、新たな映像表現を求めて格闘していたのだ。
《ルパン三世》が他の長寿アニメーションと決定的に異なるのは、この点にある。偉大なるマンネリズムとは対照的に、新しい映像表現によって新たなるルパンを描写していくこと。最新作の《LUPIN the Third─峰不二子という女》が示しているように、それは現在も進行している運動体なのだ。

2013/05/18(土)(福住廉)

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生誕120年 木村荘八 展

会期:2013/03/29~2013/05/19

東京ステーションギャラリー[東京都]

洋画家・木村荘八の回顧展。明治半ばの東京に生まれ、大正元年に画壇にデビューした後、岸田劉生や河野通勢、中川一政らと交流しながら、一貫して「東京」を描いてきた画業の変遷をまとめた。
注目したのは、挿絵と本画の関係性。よく知られているように、木村荘八は永井荷風の『墨東綺譚』(1937)の挿絵を手がけたが、それ以後も東京の都市風俗を描いたスケッチを数多く描き残している。佃島、神楽坂、浅草橋など、東京の各所を丹念に歩き、観察し、それらを絵と文で表現した画文は、いずれも味わい深い。無数の斜線を描き込んで陰や闇を表現することはもちろん、紙の表面にスクラッチを加えて白線を表現するなど、芸も細かい。描写された対象というより、それらを描いた当人の、生き生きとした躍動感が伝わってくるほどだ。
これらの画文は、いずれも手頃な大きさの紙に墨やインクで描かれており、なおかつ余白には関連する情報を記した文字が含まれているという点で、明らかに本画とは異なる挿絵である。むしろ今和次郎や吉田謙吉の「考現学」との親和性が高いとすら言える。
本画を中心に評価する価値基準からすれば、糊口をしのぐためにやむをえず手につけた周縁的な仕事に過ぎないのかもしれない。けれども、《牛肉店帳場》(1932)や《新宿駅》(1935)、あるいは《浅草の春》(1936)など、木村荘八の本画を改めて見なおしてみると、その絵画的な視線がいずれも都市風俗の現場に注がれていたことがわかる。挿絵と本画という制度上の違いはあるにせよ、木村荘八にとって描くべき対象は同一だったのだ。
晩年は自宅から望める風景をたびたび描いた。だが、そこには挿絵から溢れ出ていた躍動感はもはや見受けられない。その停滞が、老衰という生理現象にもとづいていたのか、それとも挿絵に注いでいた熱い視線と技術を本画に送り返すことができなかったからなのか、正確なところはわからない。ただ、いずれにせよ重要なのは、本画だろうが挿絵だろうが、木村荘八が都市風俗という主題を巧みに表現していたという点である。もしかしたら、本画と挿絵を無意識のうちに峻別してしまう、私たち自身の内なる制度こそ、相対化しなければならないのではないか。

2013/05/19(日)(福住廉)

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プレビュー:Art Shower 2013 ─summer─

海岸通ギャラリー・CASO[大阪府]

会期:2013/06/18~2013/07/07(公開制作)、
2013/07/09~07/21(展覧会)
公開制作と作品展示を一体化したユニークな公募展が、今年も開催される。会場は6つの展示室を有し、小さな美術館並みの展示空間を誇るギャラリー。参加者はその一角を占有し、約3週間の公開制作の後、同じ場所で作品展示を行なう。その目的は、完成品だけでなく制作プロセスまでも可視化することにより、観客とアーティストとギャラリーの新たな関係性・可能性を模索することだ。まだ2回目ということで未整備な部分もあるが、大きな可能性に賭ける主催者の心意気を評価したい。

2013/05/20(月)(小吹隆文)

プレビュー:國府理 展 未来のいえ

会期:2013/06/22~2013/07/28

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

國府理は、ナンセンスな乗り物や環境問題をテーマにしたメカ型・装置型立体作品で知られる中堅作家だ。昨年発表した作品《水中エンジン》では、自動車のエンジンをプールに沈め、水中で強引に起動させることにより、福島第一原発の事故を想起させる情景をつくり出した。以前から関西では確固たる評価を確立していた彼が、ついに美術館で大規模な個展を開催する。初期から近年の作品が勢揃いする本展で、その魅力を味わってほしい。メカ好き工作少年が紡いだ夢に、SF的テイストとエコロジー思想を散りばめた作品は、美術への理解の有無に関係なく、幅広い層にアピールするはずだ。

2013/05/20(月)(小吹隆文)

ヨーロピアン・モード2013/特集:華やかな人々

会期:2013/04/12~2013/06/08

文化学園服飾博物館[東京都]

2階は毎年恒例のファッション通史。18世紀ロココの時代から1970年代の若者たちによる多様なスタイルの出現まで、200年にわたるモードの変遷を追う。同時代の社会的経済的背景や風俗などを解説するパネルもわかりやすく、ファッションが個々人の好みではなく、政治的、経済的、社会的な要因と密接に関わり合って変化してきたことが示されている。1階展示では「華やかな人々」が特集されている。オードリー・ヘプバーンが「ローマの休日」(1953)で着用したドレス、ロシア・ロマノフ家のマリア・ニコラエヴナのイヴニング・ドレス(1840頃)、ダイアナ元英国皇太子妃のイヴニング・ドレス(1988)、越路吹雪の舞台衣裳など、女優、歌手、王室、セレブらの衣裳を、誰がどのような場面で着用したのかという解説とともに示している。ファッションはつねに時代や社会とともにありながらも、個々人のアイデンティティの発露でもあるというふたつの側面が奇しくも現われた構成になっている。[新川徳彦]

2013/05/22(水)(SYNK)

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2013年06月01日号の
artscapeレビュー

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