artscapeレビュー
2014年03月01日号のレビュー/プレビュー
アンドレアス・グルスキー展
会期:2014/02/01~2014/05/11
国立国際美術館[大阪府]
過去にグルスキーの作品を見た経験はあるが、一度に51点も見たのは今回が初めて。おかげで今まで気づかなかったものが見えてきた。それは彼の作品が持つ“強制力”とでも言うべきものだ。グルスキーは「自分の作品にはメッセージはない」と言うが、実際に作品を見ると、彼が見たもの(見たかったもの?)をグイグイと押し付けてくる。観客の選択肢は、グルスキーの視線を100%受け入れるか拒絶するかの二通りしかなさそうだ。巨視と微視が同居する大画面には人間の視覚を超えた世界が広がっており、最初はその超越感に感動するが、やがて快感と閉塞感が入り混じった不思議な感情が頭をもたげてくる。その感じは、写真よりもミニマルアート作品が放つ圧迫感に近い。
2014/01/31(金)(小吹隆文)
韓国刺繍博物館コレクション「ポジャギとチュモニ」
会期:2014/01/08~2014/03/30
高麗美術館[京都府]
韓国・ソウルにある韓国刺繍博物館と京都市にある高麗美術館のコレクションから選んだ、ポジャギとチュモニ、約85点を紹介する展覧会。「ポジャギ」とは、韓国で物を包んだり覆ったりするときに使う布のことで、日本でいう風呂敷のこと。「チュモニ」は眼鏡や箸入れ、女性用のポーチなどの袋物のことだ。ポジャギは、古いものとしては高麗時代(10~14世紀)のものも残されているというが、もっとも盛んにつくられたのは18世紀頃、つまり朝鮮時代である。同展で紹介されているのもおもに朝鮮時代のもので、同時代の女性たちの端正な手仕事を垣間見ることができる(ちなみに会期中に開催される「ポジャギづくり講座」の講師・中野啓子による創作ポジャギなど現代の作品も15点あわせて展示されている)。個人的な印象だが、日本の風呂敷というと1枚の布でできた染物をイメージするが、韓国の風呂敷(ポジャギ)というと「チョガッポ」と呼ばれる、端切れを縫いつないで1枚の布に仕上げるパッチワーク風のものを思い浮かべる。それは物を粗末にしないために工夫されたものだが、その造形にはパウル・クレーやモンドリアンなど20世紀のモダンアートを連想させる独特な美しさがあり、見ていて楽しい。[金相美]
2014/01/31(金)(SYNK)
ダレン・アーモンド 追考
会期:2013/11/16~2014/02/02
水戸芸術館現代美術センター[茨城県]
「時の旅人、ダレン・アーモンドが光と音で紡ぎ出す人類の叙事詩」。いかにも大仰な、本展の宣伝文句である。しかし、実際に展覧会を見ると、ダレン・アーモンドの真骨頂は「叙事詩」というより、むしろ「叙情詩」なのではないかと思わずにはいられない。
展示されたのは、写真や映像、インスタレーションなどさまざまであり、その内容も一貫性があるとは思えないほど多様である。けれども、少なくとも通底しているのは、それぞれのメディウムにおける形式的な美しさを最大限に洗練させながら、それぞれ鑑賞者の情動に強く働きかけている点である。
例えば、京都の比叡山で行なわれている千日回峰行を主題とした《Sometimes Still》(2010)は、複数のスクリーンを設置した映像インスタレーション。暗闇の中、斜面を駆け上がる修行僧を追尾したカメラの映像は、音響効果も手伝って、得も言われぬ緊張感が漂っている。シベリアで撮影したという《Less Than Zero》(2013)も、粗いモノクロ映像によって荒々しい風土や溶鉱炉の灼熱を映し出し、来場者の皮膚感覚を強く刺激していた。
一方、自分の父親に身体の負傷についてインタビューした《Traction》(1999)は、生々しい体験談に身体の内奥に眠っている痛覚が呼び覚まされる。肉体労働者の父はチェーンソーで指先を切り落とし、工事現場の高所から落下して骨を折り、フットボールの試合で歯がごっそり抜けた。文字どおり頭のてっぺんから足先まで全身傷だらけなのだ。その痛々しい歴史を淡々と口にする父親の語り口には思わず笑ってしまうほどだが、傍らで黙って話に耳を傾ける母親の眼を見ると、そこに家族の歴史が凝縮していることに気づかされる。痛みは記憶の糸口であり、それゆえ歴史を紡ぎ出す結節点となる。
肉体的な感覚と社会的な文脈の縫合。前者に傾きすぎると情緒的なだけになるが、後者に偏りすぎるとたちまち芸術性が失われてしまう。ダレン・アーモンドの妙技は、さまざまなメディウムを駆使しながら、双方のあいだで調和をはかる絶妙なバランス感覚なのだろう。
2014/02/01(土)(福住廉)
宮本承司 木版画展
会期:2014/01/31~2014/02/16
アートゾーン神楽岡[京都府]
若手ながら、お寿司をモチーフにした木版画作品で注目を集めている宮本承司。その特徴は、モチーフを半透明で表現していることと、シャープな造形が醸し出す無菌的な質感である。本展では、代表作のお寿司や果物のシリーズだけでなく、葛飾北斎の《冨嶽三十六景》を食べ物で表現した愉快なパロディーや、小説の挿絵を想定して描いた連作など、新しい試みも見られた。また版木の展示や、来場者へのお土産ハガキを公開制作するなど、サービスもたっぷり。意外にも今回が地元関西で初個展ということもあり、本人が「全部のせ」と言うとおりの大盤振る舞いであった。
2014/02/02(日)(小吹隆文)
越野潤 eight white rectangles
会期:2014/01/25~2014/02/16
ギャラリーあしやシューレ[兵庫県]
会場の壁面には、8点の白い長方形の絵画が点在している。それらはリシツキーのロシア・アヴァンギャルド絵画を3次元空間に解き放ったかのようであり、厳密に設計された配置が空間に美しい均衡をもたらしていた。素人目には判別し難いが、8点はすべて異なる種類の白で着色されているとのこと。着色はカゼインテンペラ技法が用いられている。また、展示室の奥にある細長い回廊状の空間では、8点の白い小品が展示されていた。こちらの特徴は、支持体が半透明の樹脂板であることと、シルクスクリーンで着色されていることだ。これにより作品が内側から鈍く発光するような効果が得られ、平面表現の新たな可能性に気付かされた。
2014/02/06(木)(小吹隆文)