artscapeレビュー
2014年03月01日号のレビュー/プレビュー
プレビュー:新平誠洙/岸本光大「Surge/リブログ」、ITO+BAK(伊東宣明+朴永孝)「0099」、LOST CONTROL 本田アヤノ+中田有美
会期:2014/03/11~2014/03/30
海岸通ギャラリー・CASO[大阪府]
京都市立芸術大学出身あるいは大学院在籍者を中心とする6作家が、3つの2人展を同時開催する。画家の新平誠洙と岸本光大が目指すのは、それぞれの作品を展示して絵画による偶発的な状況の構築。映像をはじめさまざまなジャンルの作品を制作する伊東宣明と韓国人作家の朴永孝は、0から99までの数字を記した紙を撮影した映像をリアルタイム編集で上映する(画像)。そして彫刻家の本田アヤノと画家の中田有美は、両者の作品を一つの空間に並べることで予定不調和な空間をつくり上げようと試みる。若手によるユニークな企画が3つ並ぶことの相乗効果はもちろんだが、彼らが会場の広大なスペースをいかに使いこなすのかにも注目したい。
2014/02/20(木)(小吹隆文)
プレビュー:Future Beauty 日本ファッション:不連続の連続
会期:2014/03/21~2014/05/11
京都国立近代美術館[京都府]
20世紀後半以降、世界から注目を浴びている日本のファッション。その豊かな創造性・独自性を、1960年代の森英恵、1970年代の高田賢三と三宅一生、1980年代の川久保玲と山本耀司をはじめとするファッション作品100点以上、並びに映像や関連資料などで浮き彫りにする。日本のファッションの特徴として挙げられるのは、日本の伝統的な美意識とも共通する、平面性、素材の重視、無彩色だが、本展ではそれらに加えて、日本の高度な工芸技術や各時代の前衛芸術との関わりにもスポットを当てる。さらに、21世紀以降顕著になったアニメ、漫画などのサブカルチャーや、インターネットとの関係、高度にシステム化されたファッション制度からの逸脱にも触れ、今日のファッションについても考察する。
2014/02/20(木)(小吹隆文)
熱情と冷静のアヴァンギャルド
会期:2014/01/17~2014/03/05
dddギャラリー[大阪府]
ロシア・アヴァンギャルド、デ・ステイル、バウハウスといった1920~30年代のアヴァンギャルディストから、50~60年代に影響力をもったスイス派やオランダのグラフィック作品まで約50点が揃う、小規模ながらたいへん充実した展覧会。ポスターのみならず機関誌・カタログ等が展示され、20世紀モダンデザインの潮流・展開、芸術家同士の相互交流について理解できるように配慮されている。前述のビック・ネームから、珍しいところではチェコ・アヴァンギャルドの諸作品も見ることができる。社会的ユートピアを追求する戦前のモダニストたちの熱い息吹を感じさせるものから、戦後における理知的・論理的に構成されたグラフィック作品群、そしてユーモア溢れる表現まで、十分にその世界を堪能できる。大阪新美術館建設準備室のデザイン・コレクションの質の高さにも目を瞠らされる。と同時に、同ギャラリーの外装や展示のデザイン、素敵に工夫されたデザインの変形リーフレットにも注目。[竹内有子]
2014/02/20(木)(SYNK)
愛せよコスメ!
会期:2014/01/25~2014/03/30
伊勢半本店 紅ミュージアム[東京都]
江戸時代後期、文政8(1825)年に紅屋として創業した伊勢半は、戦前期から西洋風のスティックタイプの口紅の研究に取り組んでいたという。そうした試みが開花し、伊勢半が紅屋から総合化粧品メーカーとして飛躍するのは第二次世界大戦後。「キスミー」ブランドのもとで、口紅をはじめとして、香水、リップクリーム、ファンデーションなど、さまざまな商品が販売されてきた。この展覧会は、商品やパッケージ、広告や宣伝活動など、さまざまな側面から戦後のキスミーブランドの歴史をたどる構成である。たとえば、戦後すぐにはアメリカ的、アメリカ受けする真っ赤な色の口紅が流行。その後もトレンドに合わせて口紅の色も変化してゆく。映画がモノクロからカラーになったことで、海外の映画女優たちのメイクがお手本になったり、演出色が優れない蛍光灯の普及によってそれを補うべくメイクの色が鮮やかになる。販売方法もまた女性のメイクに影響する。一般に対面販売が行なわれていた化粧品において、セルフ販売方式のパッケージを最初に開発したのは伊勢半だ(昭和38年)。これによって美容部員に勧められて買うのではなく、スーパーやドラッグストアで消費者が自ら好きな商品、色を買うことができるようになったのである。最近の商品では、少女漫画風のヒロインをパッケージに配した「ヒロインメイク」シリーズが印象的だ。「エリザベート姫子」と名付けられたこのキャラクターによる広告は、メイクに縁のない筆者にも強烈な印象を与えた。ファッションもそうであるが、化粧品もまた社会や時代の変化と密接に結びつき、そして時代をつくってきたことがよくわかるすぐれた企業史展である。[新川徳彦]
2014/02/21(金)(SYNK)
山下陽光のアトム書房調査とミョウガの空き箱がiPhoneケースになる展覧会
会期:2014/01/18~2014/03/23
鞆の津ミュージアム[広島県]
広島に原爆が落とされたあと、広島県産業奨励館(現原爆ドーム)の前に「アトム書房」という古本屋が開かれた。店主は、当時21歳の復員学徒兵、杉本豊。店内に自分と姉の蔵書1,500冊を並べ、店頭には「広島で最初に開いた店」と英文のハリガミを貼り出した。そのねらいを杉本は「これほど破壊されても、日本人はすぐ立ち上がるぞと、気概を進駐軍に示したかった。満州大連育ちで、外国人に臆することはなかったが、被爆の惨状を目の当たりにして複雑な気持ちだった」と回想している(『毎日新聞』2005年6月4日、夕刊、5頁/『にっぽん60年前』毎日新聞社、2005、p.14)。
アトム書房の存在は長らく忘れられていたが、それを改めて発見した山下陽光が調査を開始。その背景に、再び核の脅威にさらされた東日本大震災の経験があることは言うまでもない。およそ3年におよぶ持続的な調査の成果を、彼のこれまでの活動と併せて、本展で発表した。
興味深いのは、山下による粘り強い調査が、アトム書房にとどまらず、当時の広島の美術界にもおよんでいることだ。比治山で画材屋を営んでいたダダイストの山路商や、その周りに集っていた靉光、船田玉樹、丸木位里、末川凡夫人、浜崎左髪子。そうした画家たちと杉本豊のあいだに何かしらの接点があったのではないかというのが、山下の仮説である。
残念ながら、その仮説はいまのところ完全に立証されているわけではない。だが、山下の調査が優れているのは、その調査対象をあらかじめ限定することなく水平軸で歴史を見ようとしている点である。現行のアカデミズムによれば、美術史は美術、文学史は文学、映画史は映画というように、それぞれの対象を棲み分けて考えている。しかし現在の私たちの現実が特定のジャンルに収まるわけではないように、歴史の実像はそうした垂直軸によって明確に分類できるはずもない。本展の雑然としながらも濃密な展示は、専門化された歴史研究の暗黙の前提に大いなる反省を迫っているのである。
アトム書房という入口から敗戦前後の広島に降り立った山下は、当時の街の風景や人間模様を重ねながら現在の広島の街を歩くことができるという。そこまで徹底してはじめて、杉本豊をはじめとした当時の人びとの心情や内面に思いを馳せることができるのだろう。山下陽光によって切り開かれた歴史と想像力が両立する地平は、まだまだ先に延びてゆくに違いない。
2014/02/25(火)(福住廉)