artscapeレビュー
2015年06月15日号のレビュー/プレビュー
寄生獣 完結編
映画『寄生獣 完結編』は、前編よりもよかった。人間に巣くう侵略者の説明がすでに終わっており、ひるがえって、人間とは何かを問う内容が多いからだろう。人間の方が地球にとっての「寄生獣」という認識さえ示される。そして、後編の主役になっていた深津絵里の怪演! が印象深い(特に赤ん坊をあやす、彼女の笑い)。ところで、コンクリート打放しの現代建築が、非人間たちの根城になっている。やはり、こういう空間は感情がない、冷たいイメージがあるということなのだろう。
2015/05/01(金)(五十嵐太郎)
塩谷定好作品展
会期:2015/05/01~2015/07/31
フジフイルムスクエア写真歴史博物館[東京都]
塩谷定好(1899~1988)は鳥取県東伯郡赤碕町(現琴浦町)出身の写真家。裕福な廻船問屋の後継ぎだったが、家業を弟に譲って、写真撮影と制作に生涯を費やした。1928年創設の日本光画協会の会員として、「ベス単」カメラによるソフトフォーカス表現、印画紙を撓めて引き伸す「デフォルマシオン」などの技法を駆使して、大正・昭和初期の「芸術写真」の中心的な担い手の一人となった。同じ鳥取県境港出身の植田正治は、「塩谷さんといえば、私たちにとって、それは神様に近い存在であった」と常々語っていたという。
塩谷の作品は、一時やや忘れられた存在になっていたが、1970年代に欧米諸国で再評価の気運が高まり、国内外の美術館に収蔵されるようになった。今回の展示は、明治40年頃に建てられたという生家を改装した「塩谷定好写真記念館」に収蔵されている25点によるものであり、ほとんど公開されていない作品が多かった。これまではどちらかといえば、山陰のローカルカラーが色濃く滲み出ている、重厚な風景や人物写真が目についていたのだが、スキーのシュプールを写した「氷ノ山にて」(1938年)や「伯耆大山にて」と題された1920~30年代の山歩きの写真など、スナップショット的に切り取られた軽快な作品もかなりあることがわかった。二人の人物の脚を下から狙って撮影した「無題」(1927年)の斬新なカメラアングルには、モダニズム写真の息吹も感じられる。「日本芸術写真のパイオニア」という塩谷の位置づけも、もう一度見直していくべき時期に来ているのではないだろうか。
2015/05/02(土)(飯沢耕太郎)
「毒毒毒毒毒毒毒毒毒」展(もうどく展)in みなとみらい
会期:2015/03/21~2015/05/17
マークイズみなとみらい 5F特設会場[神奈川県]
マークイズにて、「毒毒毒毒毒毒毒毒毒」展(もうどく展)を見る。毒性のある生物、昆虫、植物を紹介する企画だ。派手な色彩で華やかな造形と、強烈な毒という組み合わせが凄まじい。驚くべき生物が存在することを思い知らされる。例えば、岩に擬態し、じっと動かず、補食の機会をうかがう魚は、水槽を凝視しても、やはり岩に見える。また実は毒をもっていないのに、毒性のある別の魚に擬態することによって、身を守る魚もいた。
2015/05/02(土)(五十嵐太郎)
神奈川県庁本庁舎
[神奈川県]
ゴールデンウィークで、神奈川県庁本庁舎の建物公開がなされており、初めて内部を見学した。普段は入ることができない、本庁舎の旧議場、知事室、旧貴賓室ほかの位置やインテリアなど、時代も近く、同じく帝冠様式として括られる、名古屋市庁舎や愛知県庁舎と比較すると興味深い。旧正庁にはアクセスできなかったが、すでに機能が変わり、だいぶ空間は変わったようだ。また6階の歴史展示室は、歴代の庁舎を紹介する。そして緑化された屋上は、キングの塔を真上に見上げる視点を提供し、まわりを見渡すと、ジャックの塔、クイーンの塔、横浜大さん橋ターミナルを一望できる素晴らしい場所だった。
写真:左上から、県庁舎内観、県庁舎内装、県庁舎屋上 右上から、県庁舎外観、県庁舎内装、横浜大さん橋
2015/05/02(土)(五十嵐太郎)
異国の面影─横濱外国人居留地1895─迷いこんだのは、120年前の地図の中
会期:2015/04/22~2015/07/12
横浜開港資料館[神奈川県]
横浜開港資料館にて、「異国の面影 横浜外国人居留地1895」展を見る。120年前の地図の中に迷い込んだという設定で、当時の街並みを詳細に紹介する好企画だ。英文によって個別の建物の構造や階数を詳細に記した、昔の地図が興味深い。いまでもアジアの都市だと、こういう近代のヨーロッパ的な風景が残っているところは少なくない。だが、改めて横浜は、震災、戦災、そして戦後の開発でそういった風景を完全に失ったことを痛感する。
2015/05/02(土)(五十嵐太郎)