2020年06月01日号
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artscapeレビュー

2015年11月15日号のレビュー/プレビュー

三上浩 硄グリフ展 “QUAUGLYPH”

会期:2015/09/18~2015/11/15

佐賀町アーカイブ[東京都]

石彫をやってる人の関心はなにも作品を完成させることばかりではない。制作する行為そのものを重視する人もいれば、共同作業する人たちとの関係性を重んじる人もいる。三上浩が着目したのは、石を叩くときに出る火花。この火花が飛び散る瞬間を写真に収め、そのかたちをベースに文字を生み出したのが「硄グリフ」だそうだ。ところが、これを完成して数カ月後、発表しようとした矢先に三上は亡くなってしまう。1999年のことだ。今回はこの「硄グリフ」の写真と、そのとき使った石によるインスタレーション。石彫からまったく別のものを生み出そうとした三上だが、彼にとってこれらの写真こそ「石彫」だっただろう。

2015/10/10(土)(村田真)

LOUD PARK 15

会期:2015/10/10~2015/10/11

さいたまスーパーアリーナ[埼玉県]

ラウドパーク参戦。通常は耳と頭で聴くギター中心主義史観だが、初日は足下から響き、胸に到達し、バンドを牽引するドラムが印象に残った。初来日のGOJIRAと帝王SLAYERである。前者は異常に持続するマシンガン・ツーバス、後者は安定した早回しの時計のように高速のリズムを刻み続ける。2日目は、2つの共演が序盤に華を添えた。浜田麻里×高崎晃のギターは、ウルトラ・ハイトーンボイスに久しぶりの再会で懐かしい、という感想ではなく、いやいや彼女は昔よりカッコよくなっているのではないかと感心した。もうひとつが、KAMELOT×デス声ではない声でも歌う白衣のアリッサ嬢(アーチ・エナミー)である。HELLOWEENとGAMMA RAYは、想像以上にヨレヨレで、カイ・ハンセンの2日目サプライズ参加もなかったが、前者に名曲メドレーをやられると、さすがに盛り上がる。結局、2日連続で「I want out」を聴くことになった。一方、大トリのメガデスは正確無比のメタル・マシーンが演奏するかのような貫禄である。今回、デビュー時のレビューがすごくて名前を覚えた、ナパーム・デスのライブを初めて見る。これは前衛芸術だ。しかも、笑える。痙攣のような律動に多くの観客はノリ方がわからず、リフやコード進行が認識できないし、そもそも1分くらいの曲ばかりで反復する構成も少ない。常識的な曲の体裁をなしていないが、圧倒的な強度をもつ。個人的な趣味で言えば、ツインギター+keyの様式美を追求するドラゴンフォースとか、3ピースのカッコよさを見せつけるDIZZY MIZZ LIZZYとか、80年代懐メロの企画バンドは楽しい。が、音楽とは何か? の問いにはならない。そうした意味において、ナパームデスの音楽は、現代芸術的かもしれない。

2015/10/10(土)、2015/10/11(日)(五十嵐太郎)

中村政人「明るい絶望」

会期:2015/10/10~2015/11/23

アーツ千代田3331[東京都]

今年開催された写真展の中でも、質的にも量的にも頭一つ抜けた展示といえるだろう。中村政人は、1989~93年に韓国・ソウルに留学するが、「日本からの視点しか持っていなかった自分という存在を否定」されたことでパニック状態に陥る。その「絶望の壁を乗り越えて」いくために、周辺の出来事、出会った人や事物をカメラで撮影し、フィルムを現像、プリントするようになる。その「見ることを身体化するトレーニング」としての写真撮影は、韓国滞在中だけではなく、93年に日本に帰国後も続けられ、膨大な量の写真記録が残された。今回の「明るい絶望」展には、4万点以上に及ぶというそれらの写真群から選ばれた700枚近くが展示されていた。
特にソウル時代の写真が面白い。切り口としては、赤瀬川原平らが1980年代に開始した「トマソン」→「路上観察学」の系譜に連なる仕事といえるだろう。路上で見出された違和感をともなう状況を撮影することで、社会や時代に規定されながらも、時にそれを超越していく人間の営みの奇妙さ、切実さがあぶり出されていく。「駐車禁止」のために設置されたコンクリートやドラム缶、ボウリングのピン型の表示物、「ライオン錠」、「犬と犬小屋と駐車場」など、何度も撮影を繰り返す被写体が登場し、それらの写真を「再考察」することで、何気なく見過ごしていたものへの認識が深められていくのだ。その合間にイ・ブル、チェ・ジョンファ、コー・ナッポンといった韓国人アーティストたちとの交友を写した写真が挟み込まれている。
1993年以降の東京のパートも、基本的な構造は同じだが、ソウル時代と比較すると「中村と村上展」(1992~93年)「ザ・ギンブラート」(1993年)、「新宿少年アート」(1994年)などのアートイベントの記録という側面が強まっていく。「見ることを身体化するトレーニング」のボルテージはやや低下し、中村自身もアーティストとしての活動が先行して、写真撮影に没頭する余裕がなくなっていったということではないだろうか。とはいえ、ソウルと東京で撮影された写真群は、アーティストの余技にはおさまりきらないパワーを感じさせるいい仕事だと思う。純粋に「写真作品」として再構築していくこともできるだろう。

2015/10/11(日)(飯沢耕太郎)

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ジュリア・バイエル「浮かぶ水」

会期:2015/09/11~2015/10/11

Gallery OUT of Place TOKYO[東京都]

アーツ千代田3331内のGallery OUT of Place TOKYOで開催された、ジュリア・バイエルの「浮かぶ水」展がなかなか面白かった。まったく名前を知らなかった写真家だが、独特の作品世界の持ち主である。
バイエルは1971年、ドイツ・アウグスブルクに生まれ、ベルリンを拠点として活動している。ドイツの写真家らしく、フォルマリスティックなアプローチも見られるが、女性らしい柔らかに伸び縮みする視点を併用することで、ゆるやかな膨らみのある画面に仕上げていた。今回展示されたのは、2013年に刊行された写真集『Water Matters』に収録された作品に、近作のアイルランド滞在時の写真を加えた、大小のモノクロームプリントが20点。光と影の投影、水の表面の質感の描写を強調して、水と戯れる人たちの姿を巧みに切り取る作品が多いが、雨や雪などの自然現象の写真も含んでいる。さまざまな「水の事柄」のありようを、多面的に提示しようするシリーズといえる。
実は、彼女は2005年に奈良を中心に日本に滞在しており、その時に銭湯がすっかり気に入って通い詰めていたのだという。そこで撮影した写真をまとめた『銭湯』(ベルリン日独センター、2008年)という作品集もある。それを見ても、やはり彼女の関心は、水と人との身体性を介した触れ合い、溶け合いのプロセスを、細やかに定着することにあるのではないだろうか。今のところは、まだバラバラな状態だが、将来的にはそれらが一つにまとまって、より包括的な作品に成長していくことも充分に考えられそうだ。

2015/10/11(日)(飯沢耕太郎)

Prix Pictet ─ Consumption

会期:2015/10/03~2015/10/18

BA-TSU ART GALLERY[東京都]

Prix Pictetは、スイスの投資会社Pictet社が、2008年から主催している国際的な写真賞。環境問題とサステイナビリティを大きな柱として、「Water/水」「Earth/地球」「Growth/成長」「Power/力」「Consumption/消費」というテーマで受賞者を選んできた。2014年におこなわれた第5回目の「Consumption/消費」の審査には、66カ国の275名のノミネーターが推薦した700人以上の写真家が参加し、南條史生(森美術館館長)を含む8人の審査員が最終候補者を決定した。アダム・バルトス(アメリカ)、題府基之(日本)、リネケ・ダイクストラ(オランダ)、ホン・ハオ(中国)、ミシュカ・ヘナー(イギリス)、フアン・フェルナンド・エラン(コロンビア)、ボリス・ミハイロフ(ウクライナ)、アブラハム・オホバセ(ナイジェリア)、ミハエル・シュミット(ドイツ)、アラン・セクーラ(アメリカ)、ローリー・シモンズ(アメリカ)の11名である。東京・原宿のBA-TSU ART GALLERYでの今回の展示は、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開催された展覧会を縮小した巡回展である。
驚くべきことは、「食品」シリーズでグランプリを受賞したシュミットをはじめとして、最終候補者にダイクストラ、ミハイロフ、セクーラ、シモンズといった写真界の“ビッグネーム”が顔を揃えていることだ。彼らと題府基之やホン・ハオのような、若手の写真家たちが競い合う賞はなかなかないだろう。テーマ設定にも、「特に環境問題に世界の関心を向ける」という意図が貫かれており、ドキュメントとアートを融合するという方向性も明確である。第6回目のテーマは「Disorder/混乱」だが、今回からこれまでノミネートされた日本人のうち40歳以下の写真家を対象とする「Japan Award」も設けられ、南條史生、鈴木理策、笠原美智子、飯沢耕太郎の審査により、中国揚子江流域の「死体回収業者」をテーマとした菊池智子の「The River(河)」が同賞を受賞した。もっと注目されてよい企画だと思う。次年度以降の「Japan Award」の審査も楽しみだ。

2015/10/13(火)(飯沢耕太郎)

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