artscapeレビュー

2016年09月15日号のレビュー/プレビュー

《七ヶ浜町遠山保育所》《七ヶ浜町立七ヶ浜中学校》

[宮城県]

七ヶ浜へ。高橋一平による《遠山保育所》は、三度目の訪問である。ルーズさを許容する原っぱみたいな中庭がいい味を出す。建物の高さを低く抑えているので、その分よけいに中庭が広く見える効果をもたらし、また空が大きく視界に入る。外壁のステンレスの鏡面は最初驚くが、周囲や自然を映し込み、やがてなじんでいく。続いて、乾久美子による《七ヶ浜中学校》を再訪すると、隣のグラウンドにあった仮設住宅群は消えていた。中庭をもつ単位を隅でつなぎ、連結部分に共有空間を置き、斜め方向に視線が伸びていく。透明で開放的な建築である。教室のモジュールで処理できないさまざまな用途のリトルスペースが内外にあちこち張り出す感覚は、必要に応じて増築した学校のようだ。

写真:上=《七ヶ浜町遠山保育所》 下=《七ヶ浜町立七ヶ浜中学校》

2016/08/22(月)(五十嵐太郎)

タイルとホコラとツーリズム season3 《白川道中膝栗毛》

会期:2016/08/19~2016/09/04

Gallery PARC[京都府]

京都の街角には、地蔵菩薩や大日如来などを奉ったホコラ(路傍祠)が今も多く残る。それらは地域信仰の証であるとともに、しばしば目にするタイル貼りの土台を持つホコラは、明治期以降に日本に導入された「タイル」という建築資材の歴史や、補修を加えながら受け継いできた地域住民の工夫を物語るものでもある。
観光ペナントの収集・研究や、マンガやデザインも手がける谷本研と、〈民俗と建築にまつわる工芸〉という視点からタイルや陶磁器の理論と制作を行なう中村裕太。2人の美術家が、「ホコラ」と「タイル」をそれぞれのポイントとして捉え、地域における「ツーリズム(観光)」の視点から考察したのが、2014年の「タイルとホコラとツーリズム」展。「ホコラ三十三所巡礼案内所」をイメージした会場構成がなされた。翌2015年には、「地蔵本」の出版を目標に掲げた「タイルとホコラとツーリズム season2《こちら地蔵本準備室》」展を開催し、資料や文献を集めた「ホコラテーク」が会場内に開設された。
プロジェクトの3回目となる本展「season3 《白川道中膝栗毛》」では、資料収集の中で2人が出会った書籍『北白川こども風土記』(1959)が出発点となっている。この本は、北白川小学校の児童たちが3年間かけて調べた郷土の文化、風俗、歴史をまとめたもの。なかでも、京都~滋賀県の大津を繋ぐ要路であった白川街道を実際に歩き、「蛇石」「重ね石」などと呼ばれるスポットを巡った取材記事に惹かれた2人は、約13kmの街道を実際に歩く旅を敢行。男2人組の旅と言えば「弥次喜多の東海道中」、そして「膝栗毛」(膝を栗毛の馬の代わりにする旅。徒歩旅行)ということで、茶色いポニーを連れて、道中で出会うホコラや石仏に花を手向けながらの旅となった。会場には、記録映像とともに、旅の工程表や弁当箱、馬の鞍といった「旅の記録」が展示された。
路上観察、民俗学、タイルという西洋の建築資材の定着、地域信仰など、アートの周辺領域を横断的に考察してきた「タイルとホコラとツーリズム」だが、本展では、「ツーリズム」により焦点が当てられている。大津に到着後、鞍に付着した大量の馬の毛を目にした2人は、抜け毛で筆をつくり、「大津絵」(江戸時代から、東海道を旅する旅人の土産物・護符として描かれた民俗絵画。神仏、人物、動物がユーモラスなタッチで描かれ、道歌が添えられる)を模した馬の絵を制作した。
「街道を歩く」という、労働の対価としての貨幣価値に交換されない身体的行為(旅)において、それ自体は無価値な「馬の抜けた毛」が「筆」へと、さらに「大津絵」(=土産物)へと変貌を遂げたということ。ツーリズムとしての旅路を身体的になぞりながら、土産物を「思い出」として購入・消費するのではなく、消費対象を「生産する」という転倒。そうしたひねりの提示に、おおらかさの中にある彼らの機知が感じられる。


撮影:麥生田兵吾

2016/08/23(高嶋慈)

没後20年 星野道夫の旅

会期:2016/08/24~2016/09/05

松屋銀座8階イベントスクエア[東京都]

星野道夫がシベリア・カムチャッカ半島でヒグマに襲われて亡くなってから、早いもので20年が過ぎた。そのあいだに何度か大きな回顧展が開催され、写真集やエッセイ集も次々に編集・発行されている。彼がアラスカを拠点とする動物写真家という枠組みにはおさまりきれない、スケールの大きな思考力を備えた書き手であったことも、広く知られるようになってきた。今回の「没後20年 特別展」では、これまでの展示とは一線を画する、新たな星野道夫像を探求しようとしている。編集者の井出幸亮と写真家の石塚元太良が、星野の残した写真をネガから見返して、5部からなる会場を構成した。より若い世代による意欲的な展示である。
第1部の「マスターピース」には評価の高い名作が20点、大判のフレームに入れられて並んでいる。それらの出品作に向き合っていると、アラスカの大自然の大きな広がりを遠景として、動物たちの姿を捉えようという星野の意図がしっかりと伝わってくる。第2部の「生命のつながり」と第3部の「躍動する自然」も動物写真が中心だが、特に「躍動する自然」の章に展示された、カリブーの移動、ザトウクジラのジャンプ、天空のオーロラのうごめきなどを、シークエンス(連続場面)で見せるパートが目を引く。被写体を凝視する、星野の息づかいを感じることができるいい展示だった。
第4部の「神話の世界」は、図らずも遺作になってしまった『森と氷河と鯨 ワタリガラスの伝説を求めて』(世界文化社、1996)におさめられた写真群が中心に構成である。人類学や神話学の知見を取り入れつつ、ワタリガラスの創世神話を追ってアラスカからシベリアに渡った星野が、その先に何を見ようとしたのかを、トーテムポールや先住民族の長老たちの写真を含めて再構築している。そして第5章「星野道夫の部屋」では、残された映像やセルフポートレート、カヤック、ブーツ、アノラックなどの遺品によって、星野の魅力的な人間像を浮かび上がらせていた。
なお本展は松屋銀座の展示を皮切りに、大阪髙島屋(9月15日~9月26日)、京都髙島屋(9月28日~10月10日)、横浜髙島屋(10月19日~10月30日)に巡回する。その後も1~2年かけて全国を回る予定だという。星野道夫を直接知らない若い世代に、この不世出の写真家、エッセイストの記憶を受け継いでいきたいものだ。

2016/08/24(飯沢耕太郎)

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HOUSE VISION 2 2016東京展

会期:2016/07/30~2016/08/28

お台場・青海駅前 特設会場[東京都]

ゆりかもめの青海駅で降りて、HOUSE VISION 2の会場へ。前回に比べて、外観がはっきりわかる独立した12棟の建築が展示されている。藤本壮介、アトリエ・ワン、五十嵐淳、長谷川豪、坂茂、永山祐子、谷尻誠、柴田文江、隈研吾らが企業と共同して、未来の住まいを探る企画だが、それぞれの個性もよく読み取れる。ただし、ゴーグルやiPadなどを使う展示もあったが、あまり情報量がない。少なくとも現時点では、実際の空間とそこに置かれたモノが発する情報量の方が圧倒的に大きい。建築こそが生活情報のパッケージになっている。

写真:左=藤本壮介 右上=会場風景(左:アトリエ・ワン、右:永山祐子) 右下=長谷川豪

2016/08/24(水)(五十嵐太郎)

ゴジラ展

会期:2016/07/15~2016/08/31

福岡市美術館[福岡県]

福岡市美の「ゴジラ展 大怪獣、創造の軌跡」へ。破壊するための建築や都市模型の制作、配置など、特撮の背景を紹介しており、興味深い内容だった。ただし、あまり古い資料はなく、詳細な図面やスケッチが多いのは、やはり近作である。展示の最後は、ゴジラが福岡市美を破壊する短い映像で締めくくる。この後、美術館はリニューアル工事に入り、再開は2年半後らしい。また常設エリアの「クロージング/リニューアル特別企画展 歴史する! Doing history!」では、1979年に福岡市美術館がオープンして以降、これまでの館の歴史をたどる。いつどの作品をいくらくらいの値段で購入したかなども振り返り、ダリやミロらの重要作品を獲得したエピソードに触れる。

2016/08/26(金)(五十嵐太郎)

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2016年09月15日号の
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