artscapeレビュー
2009年10月01日号のレビュー/プレビュー
長谷良樹 展《THE HAPPINESS WITHIN》
会期:2009/08/15~2009/08/29
ギャラリーヤマキファインアート[兵庫県]
ニューヨークのイーストビレッジにあるHIVや薬物中毒者の施設で、アートセラピーとして撮影された写真作品。施設に入所している人々のポートレイトと、彼らの自筆テキストがセットで展示されている。困難な状況下でもポジティブに生きる人間の姿に心打たれた。長谷と被写体が心を通わせるまでには相当の時間と忍耐が必要だったと察せられるが、その苦労は見事に印画紙上に昇華されている。
2009/08/28(金)(小吹隆文)
写楽 幻の肉筆画
会期:2009/07/04~2009/09/06
江戸東京博物館[東京都]
ギリシア人のグレゴリオ・マノスによるコレクションを紹介する展覧会。近年発見された写楽による肉筆扇面画をはじめ、浮世絵や絵画などおよそ120点あまりが展示された。狩野派による仏画、山水画、花鳥画はもとより、美人画や役者絵などを丁寧に見ていくと、江戸時代の熟成した町人文化のありように改めて感服せざるをえない。とりわけ、歌川国貞による大判錦絵《戻橋綱逢変化》(1804-18)は、北野天満宮の屋根の上で鬼と武将が対峙するシーンを描いたものだが、画面全体に流れる漆黒のうねりが、あたかも鬼のおどろおどろしい魔力を表わしているかのようで、抜群の迫力をもたらしている。これほどの絵を見てしまうと、マンガだろうとアートだろうと、「描写」という面では、もはや江戸時代に到達点を迎えてしまったのではないかと思わずにはいられない。
2009/08/28(金)(福住廉)
もうひとつの小沢剛 展
会期:2009/07/21~2009/08/29
Ota Fine Arts[東京都]
美術家・小沢剛の回顧展。「地蔵建立」シリーズや「なすび画廊」など、おもに90年代の制作活動を振り返る展示だった。詳細に記録された年表が貼り出されていたように、90年代を歴史化する作業が待望される。
2009/08/28(金)(福住廉)
真夏の夢
会期:2009/08/16~2009/08/30
椿山荘[東京都]
東京随一の結婚式場として知られる「椿山荘」を舞台とした展覧会。館内の宴会場や屋外の庭園などに46人のアーティストによる作品が展示された。ホテルや商業施設、学校などで催される展覧会の多くがそうであるように、その場の空間の調和を乱すことのない、じつに穏当な作品が多く、心惹かれる作品はほとんど見受けられなかった。また展示されていない作品もあるなど、不満が残った。唯一、小笹彰子によるコインロッカーをモチーフとした映像作品だけは、宴会場の片隅にある収納庫で発表することによって、コインロッカーの暗闇と閉塞感を効果的に引き出していたように思う。
2009/08/28(金)(福住廉)
浜寺の家 住宅完成見学会+小さな作品展
会期:2009/08/29~2009/09/06
浜寺の家[大阪府]
建築家の中尾彰良が設計した個人宅が、堺市の閑静な住宅街に完成、お披露目会が催された。ユニークなのはその内容。邸内に10人の作家による絵画、家具、絵本、詩などが配置され、住宅展示会+展覧会として公開されたのだ。ちなみに作品は施主のコレクションでも中尾のコレクションでもなく、この催しのために集められたとのこと。他人の家を覗くのは興味深いものだが、建築家が設計した建物ならなおさらだ。テレビ番組の渡辺篤史の気持ちになって、隅々まで舐めるように観察させてもらった。しかも美術展まで行なわれているのだから、その面白さは何倍にも膨らむ。他の建築家も同様の催しを行なっているのだろうか。だとしたら、今後もどんどん出かけたいものだ。
2009/08/29(土)(小吹隆文)