artscapeレビュー

2009年10月01日号のレビュー/プレビュー

青木淳 夏休みの植物群

会期:2009/08/01~2009/09/05

TARO NASU[東京都]

建築家・青木淳の個展。建築家の展覧会といえば、真っ白い建築模型が定番だが、青木淳はあくまでも現代美術としての作品を発表したようだ。会場の床にはサッカーボールを生やした植木鉢や白いリングを組み合わせたユニット、壁には茫漠とした平面作品。現代美術の定番どおり、いささか素っ気ない空間に仕上がっていたが、これは鑑賞者に思わせぶりな謎掛けをしておいて煙に巻くだけの旧来のアートのルールにのっとったというより、むしろ分析的・分解的な傾向を強調するための工夫なのだろう。青木淳といえば、4つの円を組み合わせたリングユニットを積み上げて建造物を支えるリング構造体で知られるが、それらを六角形の集積によって成り立つサッカーボールと並置することで、空間を構成する最小限の単位を意識させようとしていたからだ。それが現代美術のミニマルな傾向と共振していることはまちがいないが、同展が示唆していたのは建築から現代美術への飛躍にとどまらない。植木鉢は、そうした最小単位を人工的な自然として社会に定着させようとする野望の現われのように見えた。

2009/08/29(土)(福住廉)

薮内一実 展

会期:2009/08/31~2009/09/12

信濃橋画廊[大阪府]

壁面に掛けられたシャープな造形物には、小さな台座のような空間があり、機械部品がちょこんと置かれている。サイズは決して大きくないが、まるでそれ自体が一つの風景、もしくは舞台セットのようだ。見る者の想像力を刺激して、ひとつの世界を構築させる力を持っているのだろう。制作にあたっては、電気屋街などでの機械部品との出合いが重要らしい。機械部品を眺めるうち、背後の形が見えてくるそうだ。白いシャープなフォルムの立体は一見石膏に見えるが、実はセメントで作られている。石膏だと望む質感が出ないらしい。独特の色むらと、ところどころに見受けられる崩落の痕跡が、作品にある種の余情を与えている。

2009/08/31(月)(小吹隆文)

光 松本陽子/野口里佳

会期:2009/08/19~2009/10/19

国立新美術館[東京都]

画家・松本陽子と写真家・野口里佳による二人展。「光」を大きな共通項としているとはいえ、それぞれ別々の空間を構成しているため、個展を同時に催したといったほうがいいのかもしれない。さまざまなピンク色がモコモコしている松本の絵画は、茫漠とした色の錯綜を好む日本の現代絵画のお手本のようだが、いかにも大衆が好みそうな満開の桜のようでもあるし、ピンクハウスのスイートでファンシーな洋服みたいでもある。つまり、イメージとしてとらえることができる。その反面、野口はイメージとしてとらえがたい光の特質を巧みに作品化していた。市販のピンホール・カメラによって撮影された《太陽》のシリーズは、文字どおり太陽を印画紙に定着させようと試みた写真だが、とうぜん真っ白に感光してしまうから、私たちは形象化された太陽のイメージを連想することはできても、そこには白い空虚が残されているにすぎない。表象することは光を必要不可欠とするが、光そのものは表象することができない。光の反イメージ、ないしは表象不可能性という原則を、もっとも簡潔明瞭なかたちで提示した傑作だ。

2009/08/31(月)(福住廉)

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佐川好弘 展「FUJI ART FESTIVAL '09」

会期:2009/09/01~2009/09/06

GALLERY はねうさぎ[京都府]

立体作品の一部から文字が飛び出したり、飛び出した文字のみの造形が特徴の佐川好弘。この表現は漫画でしばしば用いられるが、佐川の場合は漫画の模倣というよりも、不器用なメッセージの発露と見るべきだろう。今回は、作品《解キ放テ》を背負って富士山頂を目指すプロジェクトを敢行。その作品と記録映像&写真が展示された。作品には彼なりの切実なメッセージがあるのかもしれないが、見ていて連想するのは、思春期のようなやむにやまれぬ衝動力。当世不足気味の“男子のパワー”が充満した作品は、まさに痛快の一言だ。

2009/09/01(火)(小吹隆文)

一丁倫敦と丸の内スタイル展

会期:2009/09/03~2010/01/11

三菱一号館[東京都]

東京は丸の内の三菱一号館の竣工を記念して催された展覧会。大名屋敷が立ち並ぶ江戸時代から近代的なオフィスビルヂング街へと変貌を遂げていく歴史をパネルや模型で解説するとともに、かつての三菱一号館を写真や資料から復元する試みを記録した映像などを展示した。思いのほか充実した展示内容で、たいへん見応えがある。オフィスで使われていたデスクや椅子をはじめ、ビジネスマンのファッションや文具、はては工事現場から発掘されたかつての建築材にいたるまで、多角的かつ網羅的なアプローチによって集められた「もの」の集合が、じつに楽しい。そして本展には「一号館アルバム」と題された写真展が組み込まれていたが、ここで抜群のセンスを発揮したのが、梅佳代だ。一号館の建設現場で労働する職人たちの姿をとらえた500枚を超えるポートレイトを一挙に発表した展示は壮観以外の何物でもない。それらをフォトフレームや単管を組み合わせた仮設足場、記念撮影に使われる顔抜き看板などによって見せる展示手法も気が利いている。竣工してしまえば忘れられてしまうが、都市の再開発はつねにこうした手仕事を生業とする職人たちによって成し遂げられているという事実を、彼らの生き生きとした表情によって伝える、すぐれたドキュメンタリーである。

2009/09/01(火)(福住廉)

2009年10月01日号の
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