2021年10月15日号
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artscapeレビュー

時代が見えてくる──オキュパイドジャパンのおもちゃたち

2013年11月01日号

会期:2013/08/17~2013/12/01

杉並区立郷土博物館分館[東京都]

イラストレーター高山文孝氏のコレクションにより、明治時代から昭和30年代までの日本製玩具を紹介する企画。「Made in Occupied Japan」とは、占領下日本で製造されたさまざまな輸出商品に付された生産国名表示である。公式には昭和22年から昭和24年までのあいだに義務づけられていたという。本展の中心となるのが、この時期の玩具である。日本がいまだ敗戦から立ち直っていない時代、素材にセルロイドやブリキを用いた玩具の仕向先は米国である。人形の姿も、自動車のスタイルも、パッケージのデザインも米国向けなのだが、そこにしばしば日本的なキャラクターが混じっている点が面白い。
 ただし、展示品はその時期の玩具だけではなく、明治大正期から昭和30年代にまで及んでいる。なぜか。高山文孝氏は、図録の序文で《肉弾三勇士》と《幸福な時代》という昭和7年に発売されたふたつの玩具を取り上げている。《肉弾三勇士》とは、第一次上海事変中の1932(昭和7)年に、点火した破壊筒を持って敵陣に突入、自ら爆死した三人の兵隊のことで、その「愛国美談」は映画・演劇にも取り上げられブームを呼び、三人の姿はさまざまな玩具にもなった。他方で《幸福な時代》は、廻るビーチパラソルの下で昼寝をする少女の玩具。昭和の初めには、のどかな光景が玩具に取り入れられる一方で、戦争の足音を感じさせる出来事が玩具に現われてゆく。その後日本は着実に第二次世界大戦へと歩みを進め、玩具の意匠にも戦時色が強くなっていく。結果的には日本は戦争に負け、「Made in Occupied Japan」の玩具へと到ったのだと解説する。
 進駐軍が制作したという玩具工場の映像資料がとても興味深い。玩具の原材料は米兵が消費した食品の缶詰である。荷馬車に空になったブリキ缶が積まれて戦争未亡人ばかりが働く小さな玩具工場へと運ばれる。工場では缶詰の蓋などを切り取り、側面を板に伸ばしてプレス機にかけると車のボディができあがる。本体を塗装し、車輪などを取り付けるとミニカーのできあがり。これがアメリカに輸出されていたという。すなわち、玩具はその意匠の点で時代を映すばかりではなく、素材、技術、市場や社会の変化に敏感に反応し、その姿を変えていったのである。図録では海外の玩具の動向や新しい玩具のデザインを提案していた工芸指導所の活動の紹介や、「Made in Occupied Japan」の刻印期間の考察もなされている。ただノスタルジーに浸るのではなく、玩具を通じて時代を見る、すばらしい企画である。[新川徳彦]

2013/10/09(水)(SYNK)

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