artscapeレビュー

伊勢周平 個展「賽の一振り」

2015年09月15日号

会期:2015/07/18~2015/08/22

タクロウソメヤコンテンポラリーアート[東京都]

カイカイキキから歩いて10分ほど、南麻布のTSCAへ。ネット上にも案内状にも休みとは書いてなかったが、ひょっとしたら盆休みで閉まってるかもと一抹の不安を抱きながら着くと、明かりは消えてるけどドアは開いてるので入ったら、奥から若者が出てきて「こんにちは」。こんな時期だれも来ないだろうけど、念のためバイトの留守番を置いたらしい。ともあれ明かりをつけて見せてもらう。いずれもジミーな色の絵具がペタペタ塗られたジミーな絵だが、まことに初々しい絵画だといっておこう。たとえば宣材にも使われてる《大リーグボール8号》。アンバー系に塗られた画面の中央に絵具が縦長に置かれ、そこから外に向かって放射状にペインティングナイフで削っている。たしかに縦長ではあるけれど高速ボールを正面から見たところに見えなくはないが、それよりナイフで削るときに裏の木枠が透けて二重枠になり、まるで後光の射すイコンのような聖性すら感じさせないでもない。おそらく「これを描こう」とか「こう描こう」と考えてつくったのではなく、描いてるうちに「こうなった」絵画ではないか。もうひとつ、右手と右足を描いた絵の隣に険しい山を描いた絵があって、言葉にするとまったく別物だが、絵にするとほとんど同じだったりする。つまり、なにか「もの」を描いているというより、「ただの絵」を描いているのだ。これほど楽しく、また難しいことはない。ちょっとほしくなってしまったが、プライスリストが見つからないため散財せずにすんだ。

2015/08/13(木)(村田真)

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