artscapeレビュー

プレビュー:したため#3『わたしのある日』

2015年09月15日号

会期:2015/10/01~2015/10/04

アトリエ劇研[京都府]

2015年、創作コンペティション「一つの戯曲からの創作をとおして語ろう」vol.5最優秀作品賞を受賞した、したためによる新作公演。
演出家・和田ながらのユニットであるしたための特徴は、予め用意された台本を用いず、出演者との会話を積み重ねる中から言葉を引き出し、時空間を構築していく方法論にある。公演に先立って、8月後半には途中経過がワーク・イン・プログレス公演として公開された。5人の出演者たちは、それぞれ「昨日使ったお金と内訳」「昨日見つからなかったもの」などの質問に対して、淡々と言葉を発して答えていく。垣間見えたような気がするその人の日常と、残された想像の余地。舞台上の見知らぬ他人に、いつしか淡い関心を抱いていく時間。そのゆっくりとした時間の醸成は、舞台上に佇む彼らのあいだにも起こっているようだ。「失くしたもの」の重さを誰かに聞いてほしくて、隣の人の腕を掴んで伝えるシーン。形にならないものが、言葉と身体感覚の両方でぎこちなくも伝えられ、隣の人へ次々に手渡されていく。そのとき、それまで断片化された情報の羅列として佇んでいた個人どうしの関係がふっと揺らぎ、親密さと危うさを孕んだ瞬間が立ち上がったことにはっとさせられた。
派手さや劇的な「演出」はないが、共感できるささやかなスケールのなかに、個人の輪郭とそれを形づくる記憶、記憶の共有(不)可能性、言葉の帰属先と個人の身体、さらには舞台上で発せられる「言葉」に誠実に向き合う態度とはどういうものか、などについて考えさせられる公演になるのではと期待したい。

2015/08/30(日)(高嶋慈)

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