artscapeレビュー
光路
2015年09月15日号
会期:2015/07/25~2015/08/08
SAI GALLERY[大阪府]
光を集め、屈折させることで像をつくり出すレンズ。そのレンズを光が通過した際にとる経路を意味する物理学用語「光路」をタイトルに、今村遼佑、大洲大作、前谷康太郎の写真・映像作品を紹介するグループ展。3名とも、「窓からの光」を捉えた自己言及的な映像作品という点で共通しつつ、時間、フレーミング、像=光という映像を成り立たせる要素に焦点を当てている。
大洲大作の映像インスタレーション《光のシークエンス・métro》は、地下鉄の車窓から捉えた光景を、実際に地下鉄車両で使用されていた車窓にプロジェクションした作品。暗闇に灯る電灯が、流れ星のように闇を引き裂く幾本もの光の筋となって画面をゆっくりと横切っていく。ここでは、引き伸ばされた時間とともに、可視的な光の軌跡として定着されている。
一方、今村遼佑の《窓》は、その名の通り、カーテンの掛かった窓越しに室内に差し込む朝日を固定カメラで捉えた映像作品。ここでは、「窓」は画面内に入れ子状にもう一つの矩形のフレーミングを形づくりつつも、窓外の風景=切り取られたイメージとして差し出すのではない。窓そのものを被写体とすることで、フレーミングという「窓」の機能を際立たせるとともに、矩形に切り取られたイメージ自体は、風に揺れるカーテンのそよぎや差し込む光の微妙な揺らぎによって間接的に伝えられる。見過ごしてしまいそうなほどの小画面、さらに床面近くの低位置に投影されることで、日常的でささやかな光景が異質なものへと変貌していく。
さらに、「窓からの光」を、遮蔽物など意図的な制限や操作を介して撮影することで、矩形のフレーミングや時間の推移に加え、受像=光の知覚へと還元するのが、前谷康太郎である。前谷はこれまでも、採取した自然光を抽出し、光の色・強弱の変化や拡張/収縮といった運動性へと還元することで、我々の眼が光を受容することで像を知覚・認識していることを改めて意識させる映像作品を制作してきた。出品作《womb》は、自作のカメラ・オブスクラのレンズに赤い画用紙を取り付け、大阪環状線の列車の車窓から撮影した映像作品。ガタンゴトンという電車の走行音が、かろうじて日常や具体性とのつながりを保っているが、光を遮る建物や電線の影が横切る度に、スクリーンを満たす赤い光がまばたきや心臓の鼓動のような明滅・強弱を繰り返し、窓の外を流れる日常的な車窓の風景が純化された光/影へと還元されることで、認識の母胎(womb)としての「光の受容」を意識させる。赤い色ともあいまって、子宮の中で「光」だけを捉えている記憶のような、皮膚感覚を活性化させる映像であった。
2015/08/08(土)(高嶋慈)