artscapeレビュー

烏丸由美「フェーシング・ヒストリーズ」

2015年09月15日号

会期:2015/08/06~2015/08/23

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

イタリア在住 27 年の画家、烏丸由美の個展。太平洋戦争に関する様々な写真資料をソースに絵画化した、100 点以上の小品のタブローが空間にリズミカルに配置される。
戦前期に撮影された家族の記念写真、白馬にまたがる昭和天皇の肖像写真、特攻隊員の集合写真や遺書、原爆のキノコ雲や被爆直後の市街地など原爆に関する米軍の記録写真、原爆投下時刻で止まった時計、原爆の悲惨さを訴える原民喜や峠三吉の文学作品の一節…。いずれも小サイズの画面に規格統一され、エフェクトをかけたような線描でなぞり直されたアウトラインと、カラフルで美しい色彩で彩られることで、ある種の異化効果がもたらされ、「歴史」との距離感が増幅される。
だが違和感を覚えたのは、そうした画面の「美的な」処理ではない。「歴史に向き合う」と言った時、ここでの「歴史」には加害の側面がすっぽり抜け落ちているのであり、またプライベートな家族写真/公的な記録、日本/アメリカの視点の差異、それぞれの政治的主張の差異といった、本来、異なる媒体や目的において記録・制作されたものが等価なサイズへと規格統一され、平坦に均されていった先に、「被害の歴史」「祖国の悲劇」の物語へと集約され再生産されていくことに対して疑問を覚えた。

2015/08/22(土)(高嶋慈)

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