artscapeレビュー

久松知子絵画展

2019年05月15日号

会期:2019/04/10~2019/04/15

日本橋三越本店本館6階[東京都]

女の子に「あなたの絵は日本画なの? 洋画なの?」と問われた久松らしき人物が、「これは絵画です」と答えるマンガが案内状に載っている。日本画出身の久松がよく聞かれる質問なのだろう。今回の出品作品は大半がキャンバスにアクリルなので、素材的には日本画ではないけど油絵でもない。強いていえば「絵画」だ。タイトルも「久松知子展」ではなく「久松知子絵画展」と銘打ち、「絵画」であることを強調している。でもこれらは単なる絵画というより、「絵画」についての絵画、つまり「メタ絵画」というべきだろう。もっと詳しくいえば「日本近代絵画」についての絵画であり、そのなかには日本画と洋画の対立や戦争画などのアポリアも含まれている。

出品は約40点で、昨年ARKO(Artist in Residence Kurashiki, Ohara)で制作した大原美術館関連の作品をはじめ、戦争画を巡る作品、身近な風景や食べ物などモチーフは多岐にわたる。なかでも、《アッツ島玉砕》を描く久松の背後に岡倉天心の亡霊が現れる自画像(?)や、たくさんの富士山の絵とそれを売って購入した戦闘機の写真や文化勲章に囲まれた横山大観像など、戦争画の関連作品がグロテスクだ。また、大原美術館の館内風景には画中画がたくさんあるが、思わず目が止まったのが、熊谷守一の息子の亡骸を写生した《陽の死んだ日》まで描いていること。一見ポップな絵のなかにもしっかり死臭を漂わせているところは巨匠並みだ。アッパレ!

2019/04/13(土)(村田真)

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