artscapeレビュー

三浦和人「ランド」

2019年05月15日号

会期:2019/04/11~2019/04/23

第1会場/ギャラリー彩光舎、第2会場/ギャラリー楽風[埼玉県]

以前、 三浦和人から東日本大震災の被災地を撮影していると聞いたとき、やや違和感を覚えた記憶がある。桑沢デザイン研究所で牛腸茂雄と同級だった三浦は、同校卒業後も身近な日常の人物と光景を淡々と撮り続けてきたからだ。だが、ギャラリー彩光舎で展示された、2011年4月から1年に2〜3回のペースで撮影した「太平洋沿岸──岩手・宮城・福島」の写真を実際に見ると、三浦のスタンスがまったく変わっていないことに胸を突かれた。

三浦は被災地の建物、植生、モノなどの眺めを、6×9判あるいは6×12判のフォーマットのカメラにおさめている。その光景にはたしかに痛々しい傷跡が刻みつけられているものもあるが、非日常が日常化していくプロセスを細やかに観察し、あくまでも平静に記録していく手つきに揺るぎはない。三浦は撮影のあいだ、できる限りその土地の住人たちと交流するのを避けていたという。そんな禁欲的な姿勢を貫くことで、あまり類をみない「震災後の写真」が成立した。ただ、最初に被災地(気仙沼)を訪ねたその日の夜明け前に、神社のある高台から撮影したという2枚の写真だけはややニュアンスが違う。黒々としたトーンでプリントされた2枚の写真には、薄闇の奥で何かが蠢いているような気配が漂っており、三浦の感情の高ぶりが感じられる。このような写真をあえて外さなかったところに、彼の誠実さがあらわれているのではないだろうか。

なお、第2会場のギャラリー楽風では「埼玉──見沼・浦和」を6×6判のカメラで撮影した写真が並んでいた。こちらも基本的な撮影のスタイルは変わらない。だが東北の写真よりは、フレームの中におさめられた事物が、自然体で見る者に語りかけてくるような、親しみやすさを感じさせるものが多い。

2019/04/19(金)(飯沢耕太郎)

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