2019年06月15日号
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artscapeレビュー

永坂嘉光「空海 永坂嘉光の世界」

2019年05月15日号

会期:2019/04/18~2019/06/03

キヤノンギャラリーS[東京都]

永坂嘉光は1948年に和歌山県高野山に生まれ、大阪芸術大学に在学していた20歳の頃から、生まれ育った高野山一帯を撮影し始めた。以来50年にわたって、ライフワークとして撮り続けてきた写真を集成したのが、今回の「空海 永坂嘉光の世界」展である。

永坂の写真を見ると、やはり子どもの頃から慣れ親しんできた高野山を、そのまま自然体で撮影し始めたことが大きかったのではないかと思う。高野山はいうまでもなく、空海(弘法大師)を開祖とする真言宗の聖地であり、一大宗教都市でもある。だが、永坂の写真には、ともすれば古寺や仏像を撮影する写真家が陥りがちな、エキセントリックで神懸かり的な雰囲気はほとんど見られない。むろん朝霧に包まれた根本大塔の遠景や、吹雪の日の壇上伽藍、夏の台風が通り過ぎたあとに水平にかかる虹の眺めなど、奇跡とも思えるような瞬間を写しとめた写真はたくさんある。だが、それらを含めて、永坂は画面構成や露光時間を厳密に設定し、こう写るはずだという予測のもとにシャッターを切っている。時に予測を超えた光景が「写ってしまう」こともあるが、それも含めて「写っている」ものを受け容れていこうという姿勢は一貫している。別な見方をすれば、彼の写真は、あらゆる観客、読者に向けて開かれた普遍性と奥行きの深さを備えているともいえるだろう。

今回の展示では、高野山だけでなく、空海が修行した四国や中国で撮影した写真を含めて、その足跡を「地、水、火、風、空」の「五大」の集合体として捉え直そうとしている。東寺の五大明王像や両界曼荼羅図の写真を含む、内陣のような空間を会場の中央に置いた展示構成も、とてもよく練り上げられていた。永坂の写真の世界は、空海や高野山に留まることなく、より拡張していく可能性を秘めているのではないだろうか。なお展覧会にあわせて、代表作147点をおさめた写真集『空海 五大の響き』(小学館、2019)が刊行された。

2019/05/11(土)(飯沢耕太郎)

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